0日目 再会の呼び声
「京子ちゃん、京子ちゃん起きて」
財前くんの声だ。
起きていたけど、起きたフリをする。
「もうすぐ着くで」
「うん……」
イヤホンを仕舞い、荷物をまとめる。
新幹線が完全に停止してから、白石先輩を先頭にして皆降りていった。その最後尾につく。
肩が少しだけ、震えているのを自分で感じた。ふう、と息を吐いて落ち着けようとする。誰にも迷惑は掛けたくない。特に財前くんは、こういうのすぐ気づくから、バレないようにしなきゃ。少しの時間でも。
「大丈夫か?」
周りにきこえないよう、小声で声を掛けてきたのは謙也さんだった。
「大丈夫」
「あんま無理せんようにな。侑士もおるから、ダメになったら言うんやで」
「……分かってます。」
敬語で話すのは、この話を辞めようという合図。取り決めているわけではないけど、謙也さんは察したようで、私の頭をぽんぽんと撫でてからは何も喋らなかった。
改札を抜け、暫く歩く。
「跡部クン、久しぶりやなあ」
迎えに来ていた氷帝の姿を発見したのか、白石先輩が声をあげる。謙也さんの背中に隠れて1番後ろをついて行った。
跡部さんの隣にはいつも通り樺地くんがいるだけで。こういう時はレギュラー陣が大体揃っていることが多かったので、少し驚いた。
「この度はお招き頂きありがとうございます。跡部クン家の別荘で合宿なんて、ホンマに貴重すぎる体験やわ」
「そんなに特別な事じゃねえよ。ところで……」
挨拶も半分に、跡部さんはじっと四天宝寺のメンバーを1人ずつ眺めていった。
これは、探されている、多分探されている。いや絶対に。
謙也さんではなく銀さんの後に隠れるべきだった。
「おい白石、アイツ連れて来いって行っただろ」
「京子ちゃんやったらここに……って、なんで隠れとるの」
「……隠れてません」
「隠れとるやんけ」
観念して謙也さんの影から前に出る。跡部さんは心底満足そうな顔をしていて、正直言って殴りたくなった。
「じゃあこっちも隠れてないで出てやらねえとな」
跡部さんの言った言葉の意味が分からなくて、固まってしまう。後にレギュラー陣でも控えていたのだろうか。そうであれば、少しまずい。
袖口をぎゅっと握り、小さく息を吐く。しかし幸か不幸か、現れたのは樺地くんの後に隠れていた、
「ひ、よし、くん……」
「…………久しぶりだな」
日吉くん1人だった。
「というわけで、今から3時間後にもう1度ここに集合だ」
「え、もう移動とちゃうん?」
「合宿は明日からだ。観光したいだろうと思って、お前らには1日早く来てもらった」
そういうスケジュールは早めに言ってほしい。と愚痴を零しかけたが、ホンマに?! よっしゃー!とハイテンションになる金ちゃんを見ると、どうでも良くなってしまって、というより鎮めるのが大変だった。
1番迷子になりそう、ということで白石先輩が一緒に行動してくれるみたいだ。ほかのメンバーも散り散りになり、私はどうしようかと思案する。
残っていたのは私と、財前くん、謙也さんの3人だった。
「3人でどっか行きます?」
「せやなあ。京子ちゃん、東京詳しいやろ? なんか良いところ連れてってや」
「また無茶振りを……」
まあ、いいけど。しかし歩き出した途端、強い力に腕を引っ張られた。
振り返ると、人の悪そうな笑を浮かべた跡部さん。
「藤崎は借りていく」
「は?」
「はぁ?」
私が思わず口にしたのと同時に、同じように言葉を吐いたのは財前くんだった。
「いやいや、無理っすわ。京子ちゃんは俺とデートなんで」
「ほう、テメー彼氏か。全く、俺様が見てない間に色気づきやがって」
「跡部さん寝言は寝て言ってください」
「そんなに怒るなよ」
冗談だ、と言うが、全くそう聞こえない。財前くんが変に誤解をさせる言い方をしたせいで余計に楽しんでいる。脛でも蹴ってあげたい。
「1時間、いや30分だ。良いよな?」
「駄目です」
駄目、と言わせない圧力を持った跡部さんの言葉に、財前くんはきっぱりとそう答えた。こういうところが彼の良いところでもあるが、なんというか……。
「絶対に30分だけですよ。それ以上は2人を待たせる事は出来ません」
折衷案はこれしかないだろう。私がそう言えば、跡部さんも納得したようで、財前くんもむくれながらも承諾した。
---> Rute 日吉