1.5 再会に呼ばれた声
「………………」
「………………」
駅構内のカフェに入ってから、ずっとこんな調子だった。
てっきり跡部さんが私に話があるのかと思ったら、跡部さんは樺地くんと一緒にどこかへ行ってしまった。取り残された日吉くんが、何かを言おうとして、その言葉を飲み込み、私の腕を引っ張った。
丁度空いた席に座り、適当に飲み物を2つ頼み、それが届けられてからも無言の時間は続いた。
私から、日吉くんへ言いたいことはあった。けれど、この30分を要求したのはあちらだ。それなら、日吉くんの話から聞くのが筋だろう、と考えた。
日吉くんが口を開いたのは、それから更に5分後の事だった。
「跡部さんに、あなたが来ると聞いて驚きました」
「私は今敬語で話されたことに驚いてる」
そう言えば、日吉くんは何故か飲みかけの紅茶を吹き出しかけ、噎せた。
「大丈夫?」
「……アンタ、相変わらず…だな」
何が相変わらずなのかはイマイチ分からないが、さっきまで難しい顔をしていたのが、緩んだ気がした。
ああ、いつもの顔だ。
「転校する前、ちゃんと話せなかっただろう。だから少し話したかったんだ」
「どうして?」
「友達だから」
友達だと。その言葉を何事も無いように言うのだから、こちらまで気恥しくなってしまった。
「じゃあ、次は私からの話」
ずっと、この2ヶ月、日吉くんに言いたかった、
「……ごめんなさい」
コーヒーに角砂糖を2つ入れて、ゆっくりと混ぜて。そうして出来上がった仄かに甘いコーヒーを啜り、落ち着いてから発した言葉は、自分が思うよりも小さくなってしまった。
「どうして謝る」
「怒ってると思って」
「そうだな。怒ってる」
「そうだよね」
到底許されることではなかった。少なくとも、こうやって面と向かって、友達と言ってくれる人にする行為ではなかった。
当時の私に余裕がなかった、は言い訳だ。
「で、最近はどうなんだ?」
「え?」
「え? じゃないだろ」
「いや……もうちょっと怒られるかなと……」
「俺は怒りに来たんじゃなくて、話しに来たんだが?」
日吉くんなりの笑みに、それ以上この話をするのを躊躇ってしまった。
そうだ、友達に再会したんだ。暗い話をしている場合じゃない。
それからしばらく、近況を報告しあった。
***
どうしようもなかった。
どうしようもなかったと思っている。
3月のはじめ、怪我を理由に入院していた藤崎は、結局春休みになるまで1度も教室に入ることはなかった。
4月、学年もあがった新学期。彼女のクラスを確認したが、どこにも藤崎京子の名前はなかった。
人づてに、転校したらしい。と。
何故、どうして。跡部さんを捕まえて問いただしたが、
「その辺の事情は忍足の方が詳しい。あいつが言わないなら、俺から話せることは何も無い」
「ですが!」
「日吉、何に怒っている?」
はっ、とした。
こんな劣悪な環境にいるより、いっそ転校してしまった方が彼女の為だと、そう思ったことは何度もあった。だから、転校したこと自体が、駄目だった訳ではない。そうではなくて。
「すみません、冷静じゃありませんでした」
「落ち着いたなら良い。それに俺も、何もしていない」
「でも貴方と忍足さんは……」
俺が怒っているのは、藤崎がいなくなったことじゃなくて、そうじゃなくて、
何も出来なかった自分と、そして、
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