「どうか、君だけは…」





「なあ、アッシュ。ひとつ質問したいんだけど」

夜。エンゲーブ周辺の森のどこか。
先程まで暖を取るために付けた焚き木の炎だけが手元を照らしていたが魔物に気付かれないようにに火は早々に消してしまった。
何の明かりも無い暗闇だが、見上げれば夜空に宝石のように散らばる星々がよく見える。


「お前、頭大丈夫か?」
「…どういうことだ。」
「いや、前髪の後た―」
「何下らない事考えてんだ、てめえは!!」
「だってお前毎日きれいにオールバックにしてるし、そんでもってストレス溜め込んでるから『こいつ将来…』って俺は真剣にだな、」
「それが下らねぇって言ってんだ!!いいから早く寝ろ屑!!」

拳骨は降ってきた。流石に痛い。
こっちは真面目に心配していると言うのに「下らない」は酷過ぎやしないか。

「いたっ!おまっ、本気で殴ること無いだろ!?」

アグセリュス崩壊後、ヴァンに不信感を募らせこっそりと裏で動き出したのは前の話。
そして今、俺とアッシュはルーク一向の動向を探るためあちこち動き回っている。

「下ろせば?"ルーク"は今短髪なんだし見分け付くだろ?」

崩壊の一件から何がキッカケか知らないけどレプリカのルークは変わった。顔つきも性格も何もかも。
ヴァンを止める為に動き出してあいつも頑張っている…と俺は思っている。
それでもアッシュはあいつのことを嫌っていた。

いや違う。もっと根本的な―

「何でそんなあいつの事嫌うかね?ある意味自分の家族みたいなだろ」
「…冗談じゃねぇ」

ぼそり、と呟いたアッシュを見れば本当に嫌な顔をしていた。
傲慢で、意地っ張りで、まだ自分がレプリカだということを知らなかった頃のルークは俺も嫌いだった。
アッシュのレプリカがこんな出来損ないなのかと落胆し、それなのに何でコイツは幸せにのうのうと生きているんだと激しい怒りが爆発しそうだった時もある。
けど今は違う。あいつも変わり始めた。
それでもルークを嫌うのは、きっと…

「アッシュ。あんたには幸せになる権利がある」
「名前?お前、何言って」
「元々お前はこっちにいる人間じゃない」

だってそうだろ?ヴァンが何も企てなければ。何も起きなければ。
アッシュは"ルーク"として親元で過ごして、今頃ナタリアと幸せになっていたはずだ。
全て俺の想像だから絶対にとは断言はできないけど。けれど、今よりはずっと幸せだと思う。
こいつを幸せにできるのはあの人達にしかできない。悔しいけれど、俺やヴァンじゃ駄目なんだ。

「…俺は、お前のおかげで人間らしくなれた」

「男児が生まれる」―予言が詠まれ生まれたのは女の俺だった。
初めは"男"として育てられてきたが次第に誤魔化しきれない身体の成長はどうしようもなかった。
罵られ蔑まれ、結局は親に捨てられた。
ヴァンに殺す為だけの兵器として育てられ、血も涙もない、感情も摩滅して人形と成り果てていた俺に。
"お前、名前は"
「あいつは危険だ」「関わらなくていい」と周りの人間の忠告を無視して。
口は悪かったけど、いつも気に掛けていてくれた。傍に、いてくれた。
俺の笑顔も涙も、取り戻してくれたのは全部アッシュだった。

「だから、」

お前を全力で守る。たとえそれで自分の命を落とすことになっても。
お前は生き残らなきゃいけない。そして帰るんだ、ルークと一緒に。

「……」
「…名前?」

言えなかった。
言ってしまえば、もう一生守れない気がしたから。

「だから……、あー…」
「…おい」
「えっと…何て言おうとしたんだっけ?」

大きなため息と共に「真面目に聞いた俺が馬鹿だった」と呆れ声が聞こえた。
それでいい。アッシュは知らなくていい。

お前が生きている―それが俺の望みだから。




まず初めに。流王氏完成が遅れてごめんなさい。何ヶ月経ったよ俺…。

アッシュが六神将を抜けて単独行動しだすあたりの話のはず。
最初はハゲ疑惑ネタだったとか口が裂けても言えない…(言っとる
書いてるうちにシリアスな方向へ…てへぺろ←
こんなんでごめん!!でも貰ってくれ!!

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