「………」


アジトが在る場所が場所の為、人気は無く、静かだ。
その静けさが名前は好きだった。


明日は藍染との決戦日だというのに、皆いつものように生活し、しかも「明日は決戦だから」とよく分からない理由でお好み焼きを焼いたり、ステーキを食べたり…と軽い宴会状態になっていた。
あまり気乗りしなかった名前は少しだけ食べ、早々にその場から出て行った。

そのまま自室に行き、寝ようと思い横になった。
が、なかなか寝付けず、なんとなく外の空気を吸いたくなって外に出た。


「……はぁ」

今日何回目か分からない溜め息をつきながら、目を伏せた。
いつも通りに生活している他のメンバーが羨ましく思う。
それと同時に、情けないことに黒い何かが蠢き、ざわめいている自分の心に落胆した。

空を見上げる。そこにはぼんやりと浮かぶ月があるだけだった。
満月でもなく、かといって半月・三日月でもなく中途半端に欠けている月だったけれど。
なんとなく、名前はその月をただただ見つめていた。理由は分からない。

眺めながら、明日のこと考える。

"藍染…"

藍染―自分たちをこんな姿に変えた死神。
殺すべき、憎き敵。

自然と眉間に皺が刻まれ、拳に力が入る。
それに気付いて深い溜め息をつき、髪をくしゃりと握った。

"…駄目だ。"

今日はずっとそればかりだ。暗い感情ばかり抱いている。

それだけではない。
百年前、傷1つ付けられずにあっさりと瀕死まで追い込まれた。
その時に微かに見えた藍染の歪んだ笑み。
それが心的外傷トラウマとなり、名前に不安を植えつける。

"もう、寝よう。"

人間は−正直人と同じ部類に入るのかは疑問だが−夜になると悲観的な考えしか出来ないと何処かで聞いたことがある。
これ以上起きていると色々考えてしまうだろう。

そう決意して部屋に戻ろうと、振り返った。

「眠れへんのか?」
「うわ、ビックリした…」

いつの間にかすぐ後ろに立っていた平子に驚く。

「まんまり驚いてへんやろ、お前…」

わざわざ気配なんて消さなくても良いのに、何で隊長は…―と愚痴に入りそうになったので一旦思考を止めた。

「なんや、緊張しとんのか」
「…いつものようにおとぼけて振る舞っていた隊長には分かんないでしょうね」
「お前な…」

いつになく真面目な顔に心無しか鼓動が速くなった気がして、思わずいつものように軽口を叩いた。
明日は決戦だというのに、何をときめいてるんだ―心の何処かでそんな自分自身を嘲笑っている気がした。

「大丈夫ですよ。ただ藍染の顔思い出したらムカついただけですから」
「ほんまか?俺にはそうは見えへんけどな」

核心をつかれて動揺する心臓をばれない様に必死に抑えた。
この人はよく見ている。見なくていい所も。

「そんな事…」
「ゆうたってええんやで。話くらい、聞いたる」

一瞬―ほんの一瞬だけすがりたくなった。
本当は不安で、宥めて欲しくて。落ち着くまで自分の傍に―

………。

思わず自嘲してしまった。
甘えてはいけない、泣かない―そう百年前に決めたはずなのに。
こうも自分の決意は弱いのかと。

「もう寝ます。隊長と話してたらなんか気が抜けました」

逃げたくなった。このまま居ると"不安だ"と言ってしまいそうで。
恐かった。全てを悟られてしまいそうで。

「おい…」

こういう時に隊長と話すと調子が狂う。
本音を、全てを吐き出したくなる。

「明日当番で早いですし…。お休みなさい」

足早に、逃げるように平子の横を抜け、アジトの中に入ろうとする。
だかそれは名前の腕を平子が掴んだ事によって阻まれる。

「隊長、離して…」

下さい―まで言い切れなかった。

突然、腕を引っ張られる。

「たいちょ―…っ!!」

一瞬何が起こったのか理解できなかった。
目の前に広がる淡い橙色のYシャツ、そしてストライプ柄のネクタイ。
腰に回る腕、全身を包み込むように伝わる体温。

意味が分からない。
自分が、抱きしめられている―?

「あのな…」

頭の上からすぐに声がする。

「お前が何考えてるかぐらい予想はつくわ。―ずっと見てきたんやからな」

抱きしめる力が強くなる。
だが、不思議と苦しくはなかった。

「心配する事なんかなーんにもあらへん。藍染倒して、終いや」
「―――」

―嗚呼。

「隊長は…狡い」

―どうして、この人は。

「狡いです…」

泣かないと決めたのに。
名前の視界が徐々にぼやけていく。

「なんやねん。別に狡いかないで。
…お前は1人で抱えすぎや。どんなに辛くてもな。たまには俺に甘えたってええ。
全部、浮けとめたる」

傍にいるさかい―

その言葉は止めの一言だった。




…最初に謝っとくね。ごめん。
関西弁無理だったし、平子誰…^q^
完成すんのも遅れましたorz
こんなんでよろしければ貰ってやって下さい。
返品・書き直しは…場合によります。

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