今日の名前は変だ。

栄口は朝から違和感を覚えた。
いつも明るく話し掛けて来てくれる名前が今日は口数が少なく、こちらから話し掛けても曖昧な返事しかしない。
目もたまに逸らされ、栄口にとっては結構ショックだった。

その行為は名前だけではない。
他の部員も栄口と話すと何故かソワソワしていた。

「なぁ田島…今日なんかあったっけ?」
「今日はフゴッ「パス練習すんぞ、田島!!」
「……」

部活の時に何気なく田島に訊いてみるも、遮られる様に花井に連れていかれてしまった。

「ねぇ、みは―」

三橋なら話してくれるかもしれない―と話し掛けようとして、ハッとする。
いつも以上にオドオドしている後に物凄く怖い顔をしている阿部が立っていた。

「な、何?栄口…君」

後をチラチラ見ながら話す―という事は完璧にプレッシャーをかけられている。
阿部が凄く怖い。般若のお面を被ったような形相で三橋を睨んでいる。

「あー…ごめん、三橋。何でもない…」

栄口の口が引きつる。
阿部の態度を見て三橋が口止めされているのは一目瞭然だった。

「三橋、投球練習すんぞー!!」
「う、うん!!」

阿部の声が掛かると三橋は逃げるように行ってしまった。
走っていく三橋の後姿を見ながら、栄口はふとある考えに行き着く。
もしかして自分は仲間はずれにされてるのではないかと…
そう考えると、急激落ち込んだ。


「栄口」

今日は何故か珍しく早めに部活が終わり着替え終わったので帰ろうとした時、花井に呼び止められた。

「何、花井?」
「いいから来いって」
「?」

いまいち状況が掴めない栄口は少し混乱しながらついて行った。
これから何があるんだろう、と少し不安を感じながら。


校舎に入りただ花井について行く。
放課後だからか中は昼間とは違い静まり返り、外で行っている部活の掛け声と吹奏楽の楽器の音が何処からか聞こえてくる。
花井は終始無言で前へと進んでいく。"仲間はずれにされている"と思っている栄口はそれが少し怖かった。

導かれるままやってきたのは1年9組。
ここなのか?と立ち止まった栄口に花井は一言。

「中に入れよ」

躊躇いながらドアを開けた。



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