2010.9.15

9月15日を数日過ぎた日の夜。
イルカ宅の居間では、里の誇る上忍であるはたけカカシが、非常に情けない声をあげていた。
「酷いでずよ〜イルカ先生ーっ」
なぜか"今日はもう遅いから寝ましょう"と言った途端にこの有様なのだ。
「何が酷いって言うんですか‥‥‥」
その光景にイルカは滅入るしかなかった。

泣いていようが 脳みそが腐っていようが上忍。
ぞんざいな扱われ方が気に入らないとばかりに 異様なチャクラをまき散らすので面倒だ。
「だってぇ先生、誕生日祝ってくれないんだもん!」
抱きつかれた拍子に涙と鼻水でぐちゃぐちゃな顔が迫ってくる。
「何言ってんですか!誕生日に任務で帰ってこれなかったのはアナタでしょう」
怒声を放ちつつ イルカはティッシュでカカシの顔を拭ってやった。
(こういうところが甘いんだよなー。俺は)
そう自覚してても鼻水を服に拭いつけられるよりはマシだった。

「普通、恋人なら今からでも祝おうとしてくれるでしょーが。なのに イルカ先生ときたら‥‥‥」
確かに 今日カカシが帰宅してから イルカが誕生日を祝う素振りはなかった。だが、カカシの誕生日を忘れていたわけじゃない。
「俺だって‥‥‥!」
イルカの震えた声色にカカシも顔を上げ 視線が交わる。
「忘れてたわけじゃないです。ただカカシさんが あまりに遅くて、それどころじゃ‥‥なくてっ」
思いの丈に比例するかのように 涙が零れおちていく。。
「楽しみに準備して、ずっと待ってたのに‥ちっとも 帰ってこな、いし。ヒグッ」
「‥‥イルカ先生、」
泣きついていた情けなさはどこへやら。
カカシは俯いて縮こまってしまっているイルカを そっと抱きしめた。

「オレが帰ってきた事だけで 先生は胸がいっぱいだったんですね。ゴメンネ、わがまま言って」
優しく頭をなでれば 濡れた頬同士が ひたり、と合わさった。
カカシの頬は乾きかけの水分で冷たくなっているのに対し、イルカの涙や頬はひどく温かい。
(生きてる人の体温だ)
抱き着く腕に力がこもる。
「カカシさん」
「ん?」

「‥‥‥生まれてきてくれてありがとうございます」

囁かれたのはお祝いよりも、もっと尊い感謝の言葉。

個人の存在意義が無いに等しい忍の世界で生きるしかないのだから。
せめて年に一度はその言葉を。
 
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