幸せな‥‥2

「アスマっ!」
待機所のソファーに深く腰掛けた熊髭の名を呼ぶ。
「どうしたのよ、カカシ」
ついでに一緒にいた紅にも怒りの視線をぶつけてやった。
「どうしたも何も、お前らのどっちかなんだろ?イルカ先生に結界の札を渡したの!」
"イルカ"の名前が出た時点で二人の顔付きは変わっていた。
「だってイルカ先生の頼みなら断れないし」
「それに悪いのはオメーだろカカシ」
「だけど‥‥‥」
二人の意見の方が真っ当な為、言い返したくても返す言葉が見つからない。
「‥‥‥二人は どうしたら、イルカ先生が機嫌直してくれると思う?」
すでに体力も気力も使い果たしていて、
これ以上怒る気なんかこれっぽっちも起きなかった。
「今回はやけにしおらしいこと。どうする?アスマ」
熊髭は面倒臭いと言わんばかりの顔をしてタバコを吹かしている。
「まぁ、誠心誠意を込めて謝るこったな。イルカならそのうち機嫌直すさ」
ひどくあいまいな、でも確固たる自信があるようなその態度にオレはもう一度イルカ先生の家へ向かった。

家の中からイルカ先生の気配は感じなかったので、玄関の前に座って待つこと一時間。
「何してるんですか」
疑問形特有の語尾をあげた発音ではなく、心底呆れたかんじの 沈んだ声。
それでも当の本人が目の前に現れてくれたことが嬉しくて、勢いよく身を起こす。
「ごめんなさいイルカ先生。オレ、自分の願望ばっかりで先生の事 ちっとも考えていませんでした。もうチョコが欲しいだなんて言わないから、」
話の最中だというのに、今だ怒っているのか、イルカ先生は難しい顔をしたまま‥‥オレの横を通りすぎて家の中へ消えていった。
(イルカ先生ぇ、)
しかも家の中を駆けずり回る音がした。
何も扉を閉めた後まで、オレから逃げなくてもさぁ。
こんな泣きたくなるような日が来ようとは思いもしなかった。
我が儘言った自分が悪い、と一生懸命に言い聞かせて 帰ろうとした時
「どこに行く気ですかっ、」
けたたましい音を響かせ扉が開いた。
振り返り見たイルカ先生の片手には、破られた数枚の札がくしゃくしゃに丸め込まれている。
「い、イルカ先生〜!!」
三十路手前の大人が 柄にもなく泣き出してしまったが泣かない方が無理だった。
一週間ぶりの先生の家。居間で待つように促されると、イルカ先生は台所へ消えてしまった。
(仲直りできて良かった‥‥!)
イルカ先生の部屋の匂いを嗅ぎながら しみじみそう思う。
「カカシさん」
台所から戻ってきた先生が手にしていたのは、ラッピングされた小さい箱だった。
「え!?」
「アナタが悪いんですよ。いつも甘い物嫌うからチョコも用意してなかったのに‥‥」
顔どころか首までも真っ赤にして 照れ隠しのつもりか鼻傷を掻いている。
「まさかこの一週間‥‥」
「あー!もぅ煩いっ!さっさと受け取れ!」
真っ赤になって怒鳴られても、可愛いとしか思えなかった。手を伸ばし 受け取った小さな箱にはもちろん待ちに待ったイルカ先生からのチョコが。
少し不格好な形からは この一週間、慣れない作業に試行錯誤する先生の姿が想像できた。
それを一つ、口に運べは

「イルカ先生、ありがとう」

幸せな味が、ほんのりとした。


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少し文字数が多くなったので拍手お礼としてではなく、こちらに載せました。

2011/02/03 黒月 カイム
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