結婚事情4

「凄く綺麗ですよ、イルカさん」
当の本人はそんな言葉を気にする余裕もないといった風に 鏡の前で硬直していた。
『チャクラの消費を抑えるために、なるべくもとの姿をベースにして 変化してくださいね。外見なんて化粧でどうにでもなりますから』
カカシの台詞を信じて イルカは女性に変化していた。
変わったところなんて顔の傷が無くなったのと 躯が一回り小さくなっただけで あと他は殆ど代わり映えしない姿。
「‥‥‥」
それなのに カカシに着付けと化粧を施してもらった姿は まるで別人だった。
「ね、どうにでもなったでしょう」
満足げに笑みをこぼしたカカシは 背後からイルカの両肩に手をおいて、鏡を見つめた。
「はい。すごいです、ね」
イルカが語尾で吃ったのは
鏡の中のカカシが 自分ではなく他の誰かを見つめているみたいに思えたからだ。
今着ている 湖面に花びらを散らした様な着物も、本来なら "あの人" に贈っていたのかもしれない。
「イルカ先生」
「は、はい!?」
いつの間にやら カカシは背後から離れて 部屋の端で支度をしていた。
「早めの方が良いですから、オレの支度が終わったらすぐ行きましょう」
もちろん、行き先はご意見番と待ち合わせをしている料亭だ。
「‥‥‥本当に俺が代理で良いんでしょうか?」
どんなに外見を眉目麗しい女性にしたてあげても 中身は中身。
不安が募らないわけがなかった。
「イルカ先生じゃなきゃ頼めないんです。女性に頼むと誤解とか後腐れとか、面倒ですから」
ほのかな光が射すような笑顔はイルカの目の前を真っ暗にした。
(嗚呼、笑う鬼だ。)
今だけは、惚れてしまった男の存在は 酷い事を言う鬼を連想させる。

イルカは拳を固く握りしめた。
せっかくの化粧が落ちないように 涙を堪えて。

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