チューリップ(赤)
彼女はいつも昼休みになると教室を出ていく。ある日偶然彼女を見た。昼休みに中庭の花壇をいじっているのを。最初は何をしているのかわからなかった。次第に中庭の花壇の手入れをしてるんだとわかった。
それから彼女から目が離せなくなった。彼女のことが知りたくなった。
そのうちに色々わかった。
家が花屋さんで花が好きだってこと。何もなかった花壇に花を植えていたこと。昼休みになると必ず花壇の手入れに中庭に行くこと。
それから彼は昼休みになるといつも校舎から中庭を覗いていた。
そんなある日、彼は勇気を振り絞って昼休みに中庭に向かった。しかしいつもと様子がおかしい。あることに気がついた。
花壇に咲いていたはずのチューリップがほとんど消えている…。
「…苗字?」
「…水谷、くん?」
「どうしたんだ?これ?」
不思議に思って聞いてみた。
「どうしたんだろうね?」
「え?」
「多分摘まれたかな?白は全部切って誰かにあげたんだよ。黄色もちょっと切ったけど…」
そう言って彼女はチューリップの様子を見ていた。前まで花壇いっぱいにチューリップが咲いていた。白いチューリップがあったところには葉っぱだけになっており赤と黄色い所にも所々葉っぱだけなのが見えた。
「摘まれたって…あんな大切に育ててたのに…」
「花盗人に罪はないって言うでしょ?それに最後には全部摘む予定だったからいいの。ちゃんと葉っぱだけ残してくれてるから来年も咲いてくれるよ。きっと」
「花詳しいね」
「家が花屋だからね」
そう言いながら彼女は残りのチューリップをハサミで摘みはじめた。
「水谷くんは花は好き?」
「嫌いじゃないよ」
「好きでもない?」
「ん〜……」
「いいよ無理に言わなくて(笑)」
「ごめん…、あまり興味ないかな」
「いいよ。…水谷くんは赤詰め草みたいだね」
「え?なにそれ?なんで?」
「花言葉が"善良で陽気"だから」
「…それ褒められてる?///」
「褒めてるつもり」
そう言って笑った彼女。全部のチューリップを摘み終えたのか両手にいっぱいのチューリップを抱えてこちらに振り向いた
「…いる?」
「え?いいの?」
「いいよ。赤と黄色どっちがいい?」
「ん〜…。あ、チューリップの花言葉教えて。花って色で言葉も違うんでしょ?」
「そうだよ。よく知ってるね」
そう言って笑った彼女。ふいうちの笑顔にドキッと胸が鳴った。
(…んだこれ…///)
「黄色のチューリップが"望みのない恋"って花言葉」
「なんか寂しいな」
「ちなみに今ないけど白は"失われた恋"だよ」
「…へぇ…」
「そして赤色が…」
その瞬間、ザワッと風が吹いた。
それと同時に彼の胸が高鳴った。
ドキッ…!!
((やばい…ッ///))
長い彼女の髪が風に揺られている。彼女は片手で髪をかきあげながらコチラをジッと見ている。もう片手で沢山のチューリップを抱きながら…。
「…?水谷くん?」
「うっ…///あっ…////」
「どうしたの?」
「ッ…〜!!///…好きだ!」
「…えっ?////」
「…き、急にごめん///でも、本気だから。前から好きだったから。」
「え…っと…///」
「か、考えといて!///」
そう言って彼は赤色のチューリップを1本、彼女の手の中から取って走って行った。
恋の告白
その場で立ち止まってしまった彼女。一本の赤いチューリップを手に取って小さく呟いた。
「花盗人…」
《花盗人に罪はない》
彼が盗んだのはチューリップじゃなくて彼女の心だったかもしれない…。