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 女性はモニカの存在に気が付いていた。それならばもう隠れる必要は無い。モニカは自ら姿を見せて、言葉を返した。

「......貴女こそ」
「探してる奴がいてねぇ。そいつが普通じゃないんで、こうでもしないと出てこないと思ったのさ」

 口の軽い人だ、とモニカは思った。無論その方が都合が良い。相手の素性は明らかである。先程モニカは彼女の詠唱の様子を見ていた。やはり、此処へ来たのも無駄足ではなかった。

「ゲートを開通し、異世界の者を瞬時に喚び出す。還す事も出来る。それが呼応術。貴女、ガーディアンですね」

 モニカの指摘に、女性はぴくり、と眉を動かす。

「へえ、その胸くそ悪い単語を久方ぶりに聞くことになるとはね」
「呼応術で相手を呼び寄せようと仰るならば、貴女が捜しているその人物もガーディアン......もしくは、それに関連しているという事ですね」
「見知らぬあんたに、どうして話さなきゃなんないのかねぇ」

 女性は明らかに敵意を向けている。そもそも、自らがガーディアンだと言い当てられただけで不愉快なのだ。

「いえ......不覚にも、私もガーディアンならば良かったと思ってしまいました」
「へえ。あんたも似たようなもんって事かい」

 モニカは一考した。ここで彼女と対峙するのは賢明ではない。姿を見せ合った以上、隠せる所はそのままに、彼女の不信感を取り除いておくべきだ。

「そうです。私が追っているのは、紋章ユリエとオルゼを宿した人物」
「......なんだって?」
「しかし、此処には居ないようですね」

 そう、その事実をモニカはつい先程知ってしまった。ベルダート一帯を探し回る手間は省けたのだが、決して喜ばしい訳ではない。
 妹達とは定期的に交信を取り続けているが、フリージアへ送ったパウラからの応答が途絶えていた。彼女は−−消失しただろうか。予めパウラには例の紋章の宿主以外とは戦闘を交えないように伝えてあった。モニカは、彼女がフリージアの地で宿主と接触し敗れたのではないか、と推測したのだ。
 宿主が此方へ向かってくる可能性は、皆無ではないが著しく低い。フリージアには港がある。もし追われているのが自分ならば、出来るだけ遠き地へ逃げようと別の大陸に渡ってしまうだろう。

「......私は彼の後を追わなければ」

 既に、周辺国のイスカにはフランを、アストラにはヘレナをそれぞれ派遣してあるが、パウラの件があるので、自分も足を急がなければとモニカは思った。もし、宿主の少年が紋章を使いこなせているのならば、取り戻すのは容易ではない。
 目の前のガーディアンの存在も見過ごせないが、彼女の相手は後に回せば良い。モニカは惜しい気持ちを抑えながらも、踵を返した。
 しかしモニカの歩みを停止させたのは、皮肉にもそのガーディアンだった。

「待ちなよ。あたしもあんたの人探しに協力させな」

 背後からの提案は、さすがにモニカも予測出来なかった。一旦このまま去るつもりだった。幸いにも敵視されている訳ではないようだが、仲間意識を持たれる覚えは無い。

「......何を仰ってるんです?」
「そのままの意味さ。あんたとあたし。同じ奴を探してるようだからねぇ」

 黄昏に染まるガーディアンの笑みからは、モニカは彼女の目論見など、推し量る事が出来なかった。

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