バレンタインのおまけ
「シンジさん。」
「ん?……あ、なるほど。この前からキッチンを使っていると思ってたらコレを作っていたんだね。」
「バレていましたか……。」
苦笑いしながら彼にチョコを渡すと嬉しそうに微笑んでくれた。
シンジさんにバレないように夜にキッチンを使っていたんだけれど、その後姫にバレ、レイさんにもバレ、マリさんにもバレ……結局ここ数日は大人数でチョコを作ることになり……。
まあ、バレますよね。そりゃ……。
さて、ここの男性は二人しかいないので後はもう一人なんだけれど。
「カヲルくん、まだ起きてないよ?」
「えっ、なんでそれもわかったんですか?!」
「わかりやすいよね、名前さん。」
少し恥ずかしくなり、ちょっとだけ熱をもった頬をつねってみる。
シンジさんにお礼を言って頭を下げてからご主人のところへと向う。
昨日、何かの書類を書くとかで夜遅くまで電気がついていたんだよね。
私たちがチョコを作り終わり、解散したあとも付いていたから多分2時は過ぎていたんだろう。
……チョコレートって意外と作るの難しいよね。
だから今日は睡眠お昼までコースだったのかもしれない。
彼の部屋へとつきノックをしてみる。
返事はないようだ。
「まさか死んでいる……!?洋館密室殺人事件?!」
なんて言ったけれど、まあただの熟睡だろう。
ゆっくり音を立てないようにドアを開ける。
部屋の中は静まり返り、ドアの隙間から冷気がもれる。
シンジさんからそろそろ起こしてきてほしいと言われてるし……、と自分で自分を納得させながら彼の部屋へと入る。
「ご主人……?」
「ん、……。」
声をかけるとその一言で起きたのかもぞりと身動きをとる。
かすれた声に少しときめきを覚えてしまい、体の熱があがる。
「お、はよう、……名前さん。」
「おはようございます。ご主人。昨日遅かったんですか?」
「少しね。朝方までやっていたから……。」
2時どころではなかった。
要領の良いご主人がここまで時間がかかるのは珍しいなと思い机の上をみると、
なるほど納得。単純に量が多かったみたいだ。
「ご主人、今日バレンタインですよ。これ、姫とレイさんとマリさんと私からです!」
「ああ、そっか、今日14日だね。ありがとう、いただくよ。」
ご主人は起き上がり、ベッドに座ったまま私からチョコレートを受け取った。
そのまま包装を綺麗に剥いで箱をあける。
え……、ここで開けるんですか?!心の準備が……っ!
なんてドキドキしていたらご主人は固まっていた。
「?」
「ふふ、暖房が効きすぎているのかもしれないね。」
ご主人と同じように箱の中を覗き込むと、そこには溶けかけたチョコレート達が。
し、しまった……、温かいというのもあるけれど、多分私が持っていたからだ……!
「す、すみません……。」
「味が変わるわけではないし、大丈夫だよ。食べてもいいかい?」
「もちろん!ご主人の為に作ってきたんで!」
「じゃあ、いただきます。」
溶けかけたチョコレートを一粒手に取るとそれを口にもっていく。
口の中に入れると、そのあと手についた溶けたチョコをチュッチュッとリップ音を響かせながら舐めていく……その姿はとてもエロい。
「うん、甘くて美味しい。」
「よかったです……、でもせっかくだったら、もっとちゃんとしたのをあげたかったです。……あ!ご主人、何か欲しいものありません?!」
「欲しいもの?」
こんな溶けかけたチョコを渡すなんて使用人としては恥ずかしいし、
何よりご主人にイイ思いをして欲しいから。私にできることなんて少ないし、
欲しいものだったらある程度なら買えるから……!
一千万とかの壺とかは無理だけれど!
「ものじゃなくてもいいかい?」
「もちろん!」
「それならば……、名前を。僕も名前で呼んでほしいな。皆は下の名前で呼んでいるのに、アスカでさえ偶にアスカさんと呼んでいるのに僕だけ一度も呼ばれたことないから。」
「それは……、」
主人と使用人だから。雇ってもらっているという立場なのにそんな馴れ馴れしく呼べないし……。
なんて思っていたけれど、ご主人の目は真剣で私に譲らないという眼差しを送ってくる。
「えっと、あの……、う〜〜〜……、か、カヲル、さん。」
「さん、はいらない。」
「カヲ、ル……さん。無理ですよご主人んんッ!!!」
私が叫ぶとご主人は「まあ、今のところはそれでいいよ」と納得してくれた。
そして彼はもう一粒チョコレートを取ると私の唇に押し付けてきた。
「口、開けて?」
「……っ、」
小さく、おずおずと口を開けるとご主人の指はその隙間をするりと抜け私の口の中にチョコレートを入れ込んだ。
舌にご主人の指が当たる。わああああ、な、な、舐めちゃった!!
思わずギュッと目をつぶる。
私の唇についたチョコレートをとったのか唇に何かが一瞬触れた。
目を恐る恐るあけると意地悪そうに微笑み自分の唇の端をペロリと舐めるご主人の顔が。
その顔を見たら体温があがり、口の中のチョコレートがじゅわっと溶けた。
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