傍若無人メイド
「マリさん!ちょっと、やあんっ!」
「いいじゃないか、いいじゃないか〜♪」
ニヤニヤと笑いながら私は彼女に胸を揉まれていた。
どうしてこうなったし。
姫は姫でその光景をみて大爆笑してるし……。
「だ、誰か助けてください!!」
「無駄だよーん、プリンスは君とまた交代してコックのワンコくんにつきっきりだし、あの無口なバトラーさんは目が座ってるし。」
「あああ!いつも完璧なレイさんまで!」
いつもの口でより背中で語れ、と言わんばかりの完璧なレイさんが正座しながらお酒をちびちびと飲んで、マリさんの言うとおり目が座ったままこちらを見ている。
私に逃げ場は、ない。
「さあ、どうする?今から私たちにワインのつまみのフルコースを作るか、このままワンサイズ大きくなるまで揉まれるか。」
「どれだけ揉む気ですか!?つくりますつくります!!」
頼みの綱のご主人も遠いところにいるし……、これは私が折れたほうがよさそうだった。
というか、マリさん、これ酔ってない。酔っているフリしてるだけだ!
マリさんはさっきのニヤケ顔のまま私を放すといってらっしゃーいと手を振った。
「……あんまりだ……、そんなフルコース作れる程、料理の腕はないし……。」
「ぐすっ……、コックの僕に声をかける前に庭師の名前さんに声をかけるなんて……、もう僕は用済みなんだ……。名前さん、頑張ってね……。」
「し、シンジさん?!」
厨房の入口に体育座りをしていたシンジさんがいつの間にかそこにいた。
相変わらず泣いているようでグシグシと目尻に溜まった涙を一生懸命手で拭っている。
「違うんですよ、マリさんはたまたま雑用でいた私を捕まえただけで……、あ、そうだ、私おつまみとか作ったことないのでシンジさん教えてください!」
酔っ払いに教えを請う事は出来るのか?と一瞬頭をよぎったけれどシンジさんはキラキラとした瞳で私を見ていたので言葉を訂正しようにも、もう遅かった。
……私が不安に思っていたことは余計なお世話だったらしく、
途中で泣き出したりと情緒不安定な部分もあったけれど
おつまみのフルコースはすぐに出来上がった。
(おつまみとはいったものの、普通のおかずにも出来そうなものばかりでよだれが出そうだった)
「お待たせしまし……ぎゃああああ!失礼しましたああ!」
「あれ?早かったね。あー、持ってくるのは私がしようと思ってたのに悪いにゃー。」
「じゃな、なななくて……!!」
ドアを開けるとそこには椅子に座っているご主人の上にまたがって向かい合って座っているマリさんの姿が。
情事の最中に入ってしまったのかと思ったけれどなんだかそんな雰囲気ではないようだ。
マリさんはご主人の上からひらりと降りると私の手からおつまみが盛られた皿を奪い取る。
奪い取りながら一つ唐揚げをつまむのも忘れずに。
「うん、上手い!やっぱ私じゃ料理出来ないもんねー。ありがと!」
「え、あ、はい。」
なんだ、本当は自分で作ろうとしたのかな?
出来なかったから私に頼んだのかな?
メイドをやっているマリさんは酔っても酔わなくても
いつでも私の理解の範疇を超えていた。
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