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夢をつまみに氷が溶けた

茶色いソファの上に座るキバナとその隣でラグの上に直に座りソファを背もたれにするアルス。彼らの前に置かれたテーブルには珈琲とカフェオレが置かれ、湯気が空気の間に溶け込もうと続けざまに立ち上がっていた。


「っふ、アッハハアルスヤバイな」
「ッ、これは言わないなぁ」

部屋に木霊する笑い声は絶え間なく空気を振るわせ続けていた。この状態になってから既に15分は経過しており、キバナが座る横に置かれた一人掛けソファで横になるブラッキーは時折その賑やかな声に反応して耳を動かしていた。


アルスが手に持ち、その後ろからキバナが覗きこむのはある雑誌…先月二人が2日掛かりで撮影したデート企画の模様が纏められた特集ページである。ページにして計8ページ。おまけに動画を読み込むための情報まで記載されている充実っぷりに、雑誌を渡された時に苦笑いしたのはキバナだけではない。

表紙を飾り立てる文字の羅列に見覚えがあるような、ないような。一番強調されている【理想のデート】という文字が否が応でも目に入る。

「こうして女性が釣られるのか」
「さあ?どうなんだろうね」
態々そんな企画をせずとも二人の特集が組まれている時点で買う人がいると思うと口に出そうかとし、済んでのところで止めたのはアルスの優しさだ。雑誌の構成を一通り眺めているキバナには余計な情報は要らないだろうと言葉を止める。


ページを巡り、雑誌の真ん中の辺りにたどり着くと漸くその特集が目に触れる。ページを捲るごとに出てくる自分達の姿は見慣れたものだ。モデルのアルスはもちろんこと、キバナもこうした仕事は回ってくることが多い。
それにしても、

「アルス絶対言わないだろこれ」
「キバナもね、これは笑う」
「"寒いね"とか言いながら手は繋がねえな…」
「自然に手を取って反応見たいよね」
「アルスはそうだろうな」
「は?」
「は?」
「いや、なにその俺は違うぜ?みたいなの」
「キバナさまはその程度じゃすまないぜ」
「なにそれ」
自信ありげに見えるように笑ったキバナを見て、数秒の間を置いてから息が出来ないほど笑い声が響く。アルスの手がキバナが叩かれたことで音を立てた。どうにもアルスのツボが浅くなっているせいで、キバナも釣られて笑いが込み上げる。ソファの前に置かれたガラス張りのテーブルの上で空になったらグラスが氷を溶かして泣いていた。
『ほら、行くぞ』

「キバナの顔が甘すぎて…ファンの子たち歓喜だね」
息が切れるほど笑いながら指差した先ではキバナが笑いかけているシーンが切り取られている。アルスが指差したそれを横目に、雑誌を奪った指先がページを挟みめくり上げた。何ヵ所かのアルスを眺め、頷いたキバナはゆっくりと口を開く。

「俺はアルスのギャップの方が酷いと思うけどな」
「え、そうかな」
首をかしげたアルスが覗きやすいように前屈みになりながら雑誌を開けば、指の間に挟めたページを幾つか見せる。待ち合わせ、として描かれた最初のページから途中に至るまで微笑みはあるもののあまり表情は変わっていない。それが、段々と花開くように変化していき
『ね、こっち見て……好きだよ』

「これむず痒いわ」
「あー、改めて見ると確かに。サービスしすぎたかな…」
観覧車で個別に撮影したものだろう。カメラに向かって指を伸ばしながら自然と出た嬉しさに揺れるような微笑みが雑誌越しにも伝わる愛しさのようなものを滲ませているようだった。
友人のそれを垣間見て茶化す、よりも照れが出てしまう位には甘さの含んだそのページを見つめ、口に手を当てながら考え始めたアルスを待つ間に改めて台詞に合わせられた写真を眺める。緩んだ瞳とほどけた笑みを見て、編集部が当てた台詞を読めば確かに恋人気分になるのだろうかと思いながら。視線をずらせば横にいる存在は計算ずくで撮影に望むタイプだからこそ今脳内で反省会と分析が行われているのだろう。
キバナから見れば天然でやらかしたときの方がよっぽど恋人らしい素のようなものが垣間見えているといえるのだが。それは距離が近いからこそ見えるものなのだろうからと、溶けた氷を口に含みながら思う。


「ん、まあテーマがテーマだし。いいや」
自己完結したアルスが雑誌から興味を反らし、一人がけソファで寛ぐブラッキーを撫でるために立ち上がった。キバナの手元に残った雑誌。企画の最後のページには次号に続く、という文字と動画を読み込むための文字列。そしてオフショとして取られたアルスとキバナのツーショットが小さく載せられていた。
宣伝用にとアルスのアカウントでマネージャーが投稿していた写真と似たそれは、一番二人の日常に近い瞬間だと知るのは僅かな人間だけだろうと笑いあったのは酒の肴としては旨いものだろう。

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