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女王と白騎士

_ガラルの女性は美しい

そんなキャッチコピーと共に画面に映る広告。動画配信サービスやポケスタ等、主にネット環境の充実した若者に向けて発信されたその広告は、多くのファンをざわつかせることとなった。

配信された動画の始まりは薄暗い赤い絨毯の上を真っ直ぐに歩く武装された足と共に音楽が流れるところから始まっていた。その足が止まったのは女性が腰掛けた椅子の前。そして画面に言葉が映る。

_どうしても、行くのですか。
消え入ったその文字の隙間から映された女性の手を取り、片膝を立てて傅く白騎士の姿。悲しげにふわりと笑った白騎士姿のアルスは口を開く。口許だけが映された場面は何故か切なさを覚えるように胸が痛む光景だった。

どうか幸せに

BGMだけが流れるその動画内ではアルスの言葉は音にならない。そのまま女性の手の甲に口付けた白騎士は振り返ることもなく、立ち去る。画面は白騎士を追わずにその女性、ルリナを映し続ける。白騎士の背中が消えた後、消えた温もりを追うように指先を握り締め唇へと手を寄せた。

今までありがとう。私の白騎士

赤く彩られた唇が、アップで写された後画面が引かれる。何かを呟く動きと共に目を伏せた女性は一度苦しげな表情を見せたが、一変して力強い瞳と自信を持った笑顔を浮かべ、立ち上がる。
小麦色の肌によく映える白いドレス。刺繍の入ったそれを靡かせながら椅子から立ち上がり歩き始めた。アルスが立ち去った扉に背中を向け、椅子の後ろにある光指す窓に歩み寄る。窓の木枠に添えた手は一度躊躇した様に握りしめたが、もう一度開いた指先は力強く窓を開け放った。
吹き込む風の勢いに靡く髪の毛。風を受けて目を伏せたルリナの瞳が、ゆっくりと開かれる。真正面から映されたその瞳の力強さは、見た人が息を飲むほどの美しさを含んでいた。光が映り、輝くその姿と共にナレーションが吹き込まれる。

_前を向け、美しき人

映像を見ている人に問いかけるようなその言葉を最後に、企業の名前が出て終わる。ほんの30秒程度の映像だった。

広告元はガラルで人気の化粧品メーカー。今回の広告はテレビではなくネットをメインにしたものであるためポケスタ等を通じて出演したルリナやアルスのアカウントからも宣伝された。配信されたのは今日の13時。その時刻から少し経ち現在14時21分。


「うわ、すごい」
今日の雑誌撮影が終わり、午後からオフになったアルスはスマホロトムが叫んだ「アルス大人気ロト〜」という言葉を聞き、どうしたのかと開いたポケスタ画面を見ながら驚いていた。
マネージャーから前に撮影した化粧品の広告動画が公開されたこととそれをポケスタで宣伝したことは耳に挟んでいたが、それでもだ。
ポケスタのトレンドとTLがすごいことになっていた。

アルスが広告動画やCMの類いのものに参加したのは初めてのことだ。そのため、ファンの人が盛り上がるのは理解しているつもりではあったのだが。
トレンドがその広告についてで埋まっていた。
企業の名前、ルリナ、アルス、白騎士等々その文字列を見ただけでもあの撮影を頑張っただけあったなと気持ちが上向く。
ルリナとの撮影は時折ある。アルスは人気モデルであるしルリナもモデルとしての人気は勿論、ジムリーダーとしての人気もある。そんな二人の撮影は話題を生むし、人気が出るため編集部から仕組まれやすい。その上、二人の容姿が対極的になりながらも釣り合いの取れるバランスをしているため様々な撮られ方をしてきた。そんなルリナとの撮影だったからアルスは少し気が楽ではあったのだが、それとは別の問題があった。

白騎士の衣装が、大変だった。
白騎士の正装姿が物語に出て来そうな格好良く、思わず本当に自分がこれを着るのかとマネージャーとスタッフに確かめてしまうほどの完成度の高い衣装だった。勿論、と頷いた彼らに促され試着したアルスの姿を宣伝用にと撮ったマネージャーに見せられた写真に映る姿は確かに、白騎士としての品格があった。それを見たメイクさんが張り切っていたのに苦笑いしたのを覚えていた。
それはいいのだ。ただ、動きが普通の服とは違い、武装された足元や腰周りのせいで綺麗に見えない。今回のメインであるルリナの綺麗さをきちんと引き立たせるためにも白騎士の動作に違和感を持たせてはいけない。足の動かしかた、歩幅、指先、座るときの動き、顔の角度。試着の段階から撮影を行うまでの間に動きの確認を何度もして挑んだ何時間かの撮影現場はアルスに新たな感覚をおぼえさせた。

そして出来上がった30秒。企業のHPではロングバージョンも上がっているらしく、そちらを見ている人も多いらしいことに喜びが溢れる。
ルリナが使用した赤いリップが今回のメイン商品になっているが、次はアルスが男性でも使える化粧品を着けることになっているとマネージャーから聞かされた。その時は男性人気も中々に高く、化粧のイメージもあるネズとの共演だとも聞いていたからそのときもこのくらい反響を貰えたら良い。そんな風に思いながらスマホロトムに幾つかのファンの反響を保存しておくように頼みつつ、アルスは立ち上がる。ポケスタの確認は後に回すことにして、今日はもうオフに切り替えよう、と一人頷く。

今日の撮影で一先ずは忙しさに区切りが付いたのだ。次の仕事は四日後、キバナとの女性向け企画撮影が決まっている。それまで羽を伸ばせと帰り際にマネージャーが背中押してきたこともあり、この数日間は好きに過ごすつもりだった。
「久しぶりにワイルドエリアに入ろうか…」
折角のオフだからと腰に通したモンスターボールのホルダーに収まる相棒のボールを爪で叩くと同意を返すようにボールが揺れる。
それならばまずは食材を調達してからだと暇を持て余して揺れるだけだった足を動かす。


ちなみに撮影のために白騎士の衣装を着用した写真をキバナに送ったらめちゃくちゃ笑いながら似合うと言われたからアイツは許さないと思いを込めて、スタンプを大量に送り付けておく。どうせまだ仕事に追われているジムリーダー様は終業するまで放置するだろうと笑ったアルス。
その悪戯気な表情を無駄なく静かに撮影したロトムが勝手にポケスタに写真を上げたことにアルスが気付くのは、ワイルドエリアで予想外にトラブルのど真ん中に入ることとなったせいで疲れ果てた体を横たえたその日の夜のベッドの上である。


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