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扉がひしゃげた。

砂埃と騒音を撒き散らしながら勢いよく押し出された扉だったものは勢いを殺せないまま壁に激突し形を変える。飛び出してきたのは腕…の様なもの。腕と言いきるには人間の腕よりもはるかに太く、どす黒く呪力を纏っている。続いて奥から現れた今回の殲滅対象に、自然と口元が弧を描く。

「あっは、きも」

熱のない瞳で呪霊を確認した後、辺り一帯に掛かる重圧が増す。

「これ何級だっけ…忘れたけど。こっちは殲滅でいいんでしょたぶん」

返事を待たずに踏み込む。頬すれすれに当たった斬撃がそのまま壁をぶち壊した。近付いてきた仲内の胴体を狙って呪霊の腕が打ち込まれる。

「残念、不正解」

その腕を支点に飛び上がった仲内の体が呪霊を飛び越えるその時、呪霊の頭部に指をかけ呪力を一気に流し込む。

「"烈火"」

頭部目掛けて流し込まれた呪力が塊となり、呪霊の一部を砕いた。が、祓いきれていない。
二本の足でしっかりと立っている呪霊の背中越しに着地した仲内が顔をしかめる。

「えー、これじゃダメなの」

頭部の一部を破壊されて尚、仲内へと突撃しようと足に力を込めたその様子を見ながら、一先ずは攻撃から身を守るために腕に呪力を集める。


一度、

二度、

三度

打ち込まれる拳のインパクトが強まった瞬間に合わせて何度か呪力を込め直し受け止める。
眉間に寄せた皺は痛みよりも怒りから来たものだ。
鋭く呪霊の後ろを睨んだ仲内が、衝撃を殺しきれずに吹き飛ばされた。



仲内烈は術式を持たない。その分、夥しい量の呪力量を持つ。ここで言う呪力量は呪力出力ではなくそもそもの呪力保有量である。体内に持つ呪力量が多いしかも常にそれが巡り続けている。本人の意思とは関係なく。
故に、呪力を放出するまでもなく。漏れ出ている呪力が常にあり、それを逆手にとって近くの呪霊への探知能力を上げている。
呪力の放出によって動きを鈍らせ、呪力を流して呪霊を祓うのが仲内の基本スタイルである。


つまりは

「おいおいがら空きだぜ」

禪院甚爾の隠れ蓑に都合が良い。

呪霊の腹にズブリと後ろから突き刺さった刀。一度の溜めから勢いよく横へと捻り切る。確かな手応えと共に消失した呪霊を確かめるでもなく、首を斜めに避ける。

一寸、



飛んできた瓦礫は甚爾には当たらずに後ろの壁にめり込んだ。
聞こえる様に舌打ちを鳴らした烈が立ち上がり甚爾へと近付く。途中呪霊が祓われた場所を態々踏み締め、踵を落としながら。



「おっそいんだけど」
「遊んでた奴に言われても」

甚爾の肩を叩きながら口を尖らせる。
やめろぶりっ子か。
そう言って烈の手を振り払い、頭へと手刀を落とした。

「痛ッ!!ッ〜!!くそ、帰るぞ!」
「おーおー」