▼明日の幸福に今日の絶望を
「こんなこと思うのは可笑しな話だか、…俺は多分、戦がない平和な世になったら死んじまうな」
血に染まり、周りを煙と悪臭に囲まれた戦場を後にする途中、
思い出したかのようにポツリとユウが洩らした。
幸村よりもいくつか歳上なばかりの、まだ年若いユウだが、戦場に立てば周りを鼓舞し、機転のきく強者である。
そんな彼が、自身の手を眺めながら、されど、決して自傷的な言い方ではなくただ口から溢れたというような声。
普段とは外れたその様子に、思わず声をかけていた。
「ユウ?どうしたの」
「…居たのか。佐助。」
ばつが悪そうに苦笑いをしたユウは普段の頼れる兄貴のようではなく、ただ血を流し、力を望む闇に溶けそうな雰囲気を出していた。
「ユウ?」
もう一度名を呼べば、観念したかのように息を吐き、先までいた戦場へと振り向いた。
「御館様が、日ノ本を平定して下さるのは勿論信じている。ただ、俺個人としては、布団の上でなく、この戦が続く世の中で、最後まで敵と向き合い血を流して…いきたい。」
前から、佐助は知っていた…否、気づいていた。ユウが戦いに魅せられていることを。血を流すそのやり取りに囚われていることを。
…自身の持つ狂気に蝕まれていくユウを。
まるで快楽を求めるかの如く、敵に向かっていくユウに危機感を覚えたのは何時だろう。戦に出る度にユウの危うさを感じた。
ただ、ユウは、隠すのが上手かった。
普段は何もそのようなことは感じさせない。誰にも異変を抱かせない。ユウ自身が気付いていないかのように。
「道を外すなよ、ユウ」
「ああ、心得てる。」
佐助が闇に生きる者でなかったら、誰もユウの声には気付かなかった。ユウ自身、 知らぬふりをしていた。
行きたい、生きたい、逝きたい
戦を、この乱世を、明日を。
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