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「#幼馴染」のBL小説を読む
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▼天は二物を与えず

天は二物を与えずと言うが、そうではなく二物を与えても何かを差し引いて結果一物にするだけなのではないか


タソガレドキ城主黄昏甚平衛の息子、つまりタソガレドキ城嫡男ユウは現城主、悪名名高い甚平衛の血を引いているにも関わらず若干11歳の若さでその名が城下にも伝わるほど才溢れた子供であった

眉目秀麗、智勇兼備、芸事さえも華麗にこなし、非の打ち所もない

これがユウへの評価である

が、

やはり完璧な人間など存在はしない


ただ才溢れた子供であれば何もタソガレドキが誇る忍隊が苦労することなどない
ユウは少しばかり好奇心と行動力に溢れる子供だったのである。それだけならまだしも運動神経が良い彼の子供はその欲に促されるままに動いても体がついていったことでままに動けた

結果的に、簡潔に云えば、

タソガレドキ嫡男、ユウは脱走癖があった
――――――

タソガレドキ城から離れた領境の山間に評判名高いその嫡男はいた。現在タソガレドキ城内ではその方が居ないと大騒ぎしているのだがそこはひとまず置いといて、その方体を縄で結ばれ動けない状態でまだ少年と言える彼の体よりも大きな、それでいて刀を持ち汚れた服を着た
所謂落ち武者、盗人等といわれる輩たちと対峙している
「へっ、俺達に見付かったのが運の尽きだな。随分と上等な服を着てんじゃねえか」
「顔も上等だ、これなら売れば金になる」
「何処の餓鬼だかは知らねえが自分の運が無かったことを怨むんだな」

「…何とも負け犬らしい事を言っているな。」

「な!?てめえふざけてやがるのか!」
「今すぐここで殺すぞ!」

「んー…君たちには出来ないと思うけどね。」
怒りを露にした男たちから目を外し、ユウは近くにある木を眺めながら無意識に張っていた力を抜いた。未だにごちゃごちゃと怒鳴っている声を無視しユウはおもむろに口を開いた

「ねえ、君たちってさ、僕が誰だか分かってやったの?」
「何を言ってやがる、てめえみてぇな餓鬼は知らねえよ」
「…うーん、何て言えば良いかは知らないけど、君たち随分と運が無かったね」
「はあ?」
「僕としては楽しかったから良いんだけど迎えが来たからなぁ」
「こいつ!縄が!」
少し身動きをしながら縄を緩め、立ち上がれば抜けた縄は地面へと落ちた。突然のことに驚いた男たちは持っていた刀をユウに向ける。それには見向きもせずユウは長く座ったせいで固まっていた体を解していた

「おい!餓鬼動くんじゃねえ!」
「動かないで欲しいのは君たちの方だけどね」
「誰だ!?」
「さあ?誰だろうね…とりあえず君たち黙っててくれる?」
突然男たちの後ろに現れ、そのまま男たちを眠らせ倒れた男たちには見向きもせず、ユウの前で膝を付く。ユウは不満げな顔を隠さず呟く
「てっきり陣左が来ると思ってたけど、何で昆奈門?」
「尊奈門の後始末に向かいましたが…尊奈門は何を?」
「んー…よくやっていたとは思うけど、まだ若いよね。ちょーっと悪戯しただけで混乱してたよ…うん面白かった」
「……」
思い出し笑いをしながら手を唇に持っていき少し思考を外す。その時頭にふと思い付いたのは目の前の忍…否、雑渡昆奈門がユウが城から抜け出すときに城にいなかった理由。
確か、
「ねえ、昆。えーと何処だっけ…あ、忍術学園とか言う所に行ってたんじゃないっけ?戻ってくるのが速すぎない?」
「尊奈門が泣いて走って来たので。」
「…おや、予想外。」
てっきり焦って城内を走り回って混乱したまま探しに来るかと思ったけど意外に冷静だったのか
「…出る前に指示を出しておいたので」
「余計な世話だよ」
「ならば勝手に抜け出さないで頂きたい」
「…その話し方疲れない?いつものでいいよ」
「若様」
「んー?」
「とりあえず城に戻るよ」
「疲れたからおぶってね」
「嫌」
「命令」
「…御意」

ユウの脱走はいつものこと。それを追い掛けるのは忍隊。普段は見せない子供らしさを唯一出すそのときは、例え城内が騒がしくなるとしてもこの小さな若様の自由を望む。…まあ、私もよくするし。

日常的な攻防
「何で今日は脱走したの」
「比較的警備が甘かったしね。昆はいなかったし陣左は昆を連れ戻しに、陣内は遠出中。僕の近くにいたのは尊奈門だけ。僕を止めるには尊奈門はまだまだだよ。」
「(…鍛えるか)」


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