2時に広場で待ってろよ!
そう約束を放り投げて急ぎ足で去っていった恋人は、四番隊の隊長であるからして今回買い出し担当である四番隊を引き連れ街中へと消えていった。
その姿を見届けたライトは欠伸を噛み砕きながら、ゆっくりと外に出る支度をし、これまたゆっくりと船を後にして、街中へと歩みだした。
約束の時間までさて、何をしようかと街中を見渡しながら歩いていたライトの視界に映りこんだのは趣のある本屋の看板。白ひげの家族の中でも読書家トップの座を誇るライトは、楽しげに店内へと足を踏み入れた。
目にしたことのなかった古本や、希少価値の高い原本など、宝箱を開いたような高揚感に包まれながら店主に話を聞いたり本を探し回っていると、時間など頭の中から消え失せた。ちょうど手に持っていた本の章が終わる頃、棚の間にいるライトの後ろを通る人影に場所を譲るために棚に寄る。顔をあげながら目に映る題名たちの文字を追っているライトの横から突如として声がかけられた。
「ひとり?」
見れば分かるだろう?何のようだ。と、口から出す前に目線を動かした先にいたのは、朝バタバタと消え去った恋人の姿。
「サッチ?」
どうした、と唇を動かす前にサッチがあからさまなウインクと笑顔を携えながら言葉を重ねる
「デートしない?」
「…っフハ」
返事の前に思わず吹き出した。朝約束した筈なのに、わざわざ。買い出しが早く終わったのだろう。それなら好きに時間を使えばいいのに、わざわざ探した先で言うのがそれか、と。調子がいいサッチの姿が擽ったさと面白さで胸の奥を包んでいた。
「フ…ああ、勿論」
「よっし、…そんなに笑うなよ」
「そういうサッチも笑ってるじゃないか」
自分でやった癖にライトにつられて笑うサッチの掌に指を這わせながら笑う。それに気付いたサッチの瞳が揺れるのを知りながら、本棚に向けていた身体を向かい合わせる。
「お迎えありがとう、格好良いオニイサン」
「どういたしまして、綺麗な美人さん」
口にした言葉、帰って来た言葉を耳に入れながら笑いがこぼれた。本当に、サッチといると退屈しないな。そう思ったのは秘密にしながら。軽々しく出てくる誘い文句とは裏腹に、恐る恐る握られた指先を絡ませ、思っていたよりも早く始まる"デート"をするために、重たい扉を開き足を踏み出したのだった。
栞のない古本屋