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スモーカー視点

※オリキャラ海兵の名前が出てきます

そこに通りがかったのは偶然だった。風を通すためかそれとも他の理由があるのか、海軍本部大将黄猿の部屋の扉が僅かに開かれたままで、中の声が耳に止まったのだ。

「ジオ〜君ぃ、いつまで鼠にかまっているつもりなんだぁ〜い」
「鼠だなんて…前にも言った通り、犬、ですよ。構うというよりは…躾ですかね」

それが示す言葉は…ただの世間話のようにも聞こえるその会話の裏に隠された言葉の意味を嫌でも感じ取ってしまったその男は、扉の前から踵を返し、早足に去っていった。

葉巻の匂いだけを残していったその男の名は、スモーカーという。


ここ数日、海軍のなかで密かに噂されていることがあった。
「ジオ少将の部隊に海賊のスパイがいる」、と。そのスパイと言われている奴はジオ少将に拾われたらしく、そのせいで余計に尾ひれがつき、海兵のなかで囁かれていた。その噂はスモーカーの耳にも入っていた。


その日のうちに海軍本部から外へと出ていったジオ少将の姿の横にいたのは体格のいい海兵だった。それを見ながら気付かれないような距離を保ち後ろを着いていくスモーカー。
スモーカーの前を歩く二人を見失わないようにしつつも相手に気付かれないように随分と距離感を開けたまま、二人の姿を観察していた。
二人の会話は聞こえないが、ジオが振り回すように海兵が必死に着いていくのだけは分かった。
しかしまあ…噂の少将サマというべきか。それとも何か人に感じさせるものがあるのか。すれ違った島民は振り返り、歩みを進めれば自然と道が開く。不自然なその光景が何故か自然に見えてくるのだから可笑しさは増すばかり、だがジオは何も気にすることなく進んでいく。

段々と人気が無くなっていき、遂には誰も通らないような薄暗い木陰へとたどり着いた。そこに来て足を止めるジオの様子からそこが目的地だと分かるが…

「ジオ少将…ここは…」
「俺が野良犬拾った場所」

「!?」

海兵に背を向けたまま、背中越しに答える力強い声。びくりと跳ねた海兵の姿に、スモーカーの中で1つの仮説が立った。
海兵の様子が変わったことには気付いただろうに振り返りもせず、ジオは話し続けた。

「初めて見たとき、薄汚れて元の白さなんか分からないぐらい黒くなってたんだけどな。…睨むように此方を伺ってくるその瞳に惹かれたんだろうな」

「瞳…ですか」

「あぁ…世の中の汚さも不条理さも全部経験して、何度だって絶望しただろうに…それでも生きようとするその強かさが気に入ったんだ。そんな金の瞳を持つそいつが欲しくなった。
俺のモノにしたかったんだ…だから留めた」

「っ…少将は気付いて!?」

「俺のことなんだと思ってんだかな…駄犬はどう転んでも駄犬か?それとも、単なる散歩のつもりだったのか?てめぇの名前も居場所も此処には要らなかったか?…答えろっノラ!!」

「違います、違うんです!!少将、俺は…俺は貴方に救われたから…だからこそ海兵として貴方の側にいれるように、海賊から抜けるためにっ!!」

海兵の声は震えていた。もはや叫んでいるその様子に、それでも振り返らないジオはどういうつもりなのかと今姿を表す訳にはいかないが、思わず一歩踏み出してしまった。
その時、聞こえた言葉に

「ノラ…お前の飼い主は何処の誰だ」

圧倒的な威圧感を感じたのは何故なのか。海兵の背中の筋が伸び、敬礼の形になったのはその少将に対する恐れか、尊敬か

「海軍本部、ジオ少将ですっ!!!」

「勝手に動くな。命令を聞かずに判断するな。俺の命令に従え…」

「はっ!!」

海兵の返事に1度頷いたジオは、そのときになって漸く海兵のほうに振り向いた。すなわち、スモーカーが居る方へと顔を向けた訳だが…ほんの一瞬、しかし確かにジオの目線がスモーカーへと向いた。交わった視線にスモーカーが固まるのを気にもせず、すぐに目をそらしたジオは海兵へと声をかけその場を立ち去ろうとしていた。


「はっ……あの野郎…牽制のつもりか」

下手にでも自分の隊の海兵が先走った海兵に手を出されないよう、何かと注目されやすい自分の手元に置きながらさっさと後始末出来るよう。その後始末というのも海兵を捕らえるようなものではなく、海兵を利用して裏にいる海賊を総捕りにして誰にも文句を言わせぬように噂を力ずくで消し去る為に。

これではスモーカーが手出しする隙間もなかった。あの様子では既に海賊の在処まで割れているのだろう。噂が消えるのも時間の問題だ。

「チッ…とんだ無駄足だったな…」

そう呟いた後、ジオ達が消えた方とは逆の方向へ足を進めたスモーカーは知らない。
この件に関して、そこまで難しい話は関与していないということを。


ジオ視点→

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