笑ったが福は来なかった
「辞めるのもいいかもな、」
だってここは海軍本部だ。有能な人材はいくらでもいて運と勘違いとクレイジーさでここまできただけの俺の代わりなんていくらでもいるだろう。
まあ、その…たかだか俺がふと呟いたその一言でここまで事が大きくなるとは思わないだろう普通。
目の前に表れたその人に背中に嫌な汗が伝いつつも思う。何故こうなった。
「どうかしましたか、元帥」
相変わらずカモメが頭に乗ってますね、前から思ってたんですけどそれはペットですか。空気を壊すように聞いてみたいところだが、流石にお偉いさん相手にそんなこと言える訳もなく、執務室に訪れた思わぬ客をソファに招く事が精一杯だった。
「ジオ」
ああ、はい何でしょうか相変わらず威圧感ありますねそれが上に立つ人のオーラってやつですかすごいですね元帥殿。というかなんでそんなガン見してくるんでしょうか俺何かしましたか。心当たりは色々ありますが…あの…ね?
「海軍を辞めようとしているとは本当か」
…嗚呼、はい。そうでしょうね。その話でしょうね。
不思議だなぁ…俺は確かに辞めようかと思ったよ。少将になってからやたらと大変になったし相変わらずお偉いさん方から睨まれるしそのわりに金は入るから特に趣味も無い俺の貯金は貯まっていく一方だしもう働かなくてもいいかなとか思ったよ。けどな、俺が辞めようかと呟いたのはめっちゃ小さな声だったし、巡回を終えて海軍本部に帰る船の上で周りに聞こえるもんでもないだろうに何故元帥のところまで話が回ってんだよ。
やっぱり俺の部下は俺のこと嫌いでさっさと居なくなって欲しいから元帥のところまで話が広がるように噂でも流したのか?あ?…なにそれ悲しい。
というか元帥が聞いてきてるのはどういう意味でだ。辞めるなってことか、辞めろってことか。
元帥まで話が広がったならもう辞めた方がいいんじゃないか?そーだよな?
「お前の部下たちはどうするつもりだ。ジオ以外に従うとは思えないぞ」
「そのようなことはないかと」
「ある」
即答かよ。なに、辞めるなってことか、そうなのか。嘘だろマジで?固まる思考回路と共に顔の表情も固まった。目の前で淡々と話し(説得)し続けている元帥には悪いがほとんど耳を通り抜けている。
ああもう…いいや。続けよう。辞める方が面倒くさそうだし。まあ部下も勘違いしてばっかりだけどいい奴らばっかりだし。
「元帥…仕事に戻っても宜しいでしょうか」
そう言った俺の言葉に大きく頷いた元帥を見て、溜め息がでそうになったが無理矢理飲み込む。駄目だ…続けるしかないだろ。
やっとのことで元帥の部屋から退室したその足でボル大将の部屋に突撃する。思いっきり扉を開けたにも関わらず机に向いたまま顔も上げない大将に大きく息を吸い声を出す
「駄目でした!!」
「だろうねぇ」
そして今日も、俺は変わらず平凡にこの海軍で過ごしていくのである。
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