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嘘つきだが泥棒にはならなかった

「─そもそも正義か悪かと定義付けること自体が無意味だろう

正義も悪も、切り詰めていけば根本は同じじゃないか。

信念を貫くかどうか、と。

それを客観的に見た時の評価として良い悪いが勝手につけられるだけだ。

海軍が背負っている正義が、絶対的正義な訳がない。政府に認められた正義だから正しいとされているだけで、別の角度から見ると役にも立たない正義だなんてしょっちゅうだ。

例えば白ひげ海賊団みたいに、己のマークで縄張りとすることで島を守るように、海賊の行為のほうが島民を守れるなんてことも多い。

通報を受けて海軍が着いたときには島がボロボロ、島民皆殺し、みたいなこともあるわけで。
海軍支部を置いた所で、そこを取りまとめる上官や海兵が、島民を利用して悪事を行うようなグズだったらどうしようもない。
多面的に見ていけば正義が悪の場合もあるんだ」


酒の席で、ジオ少将が語った言葉だった。酔っているような様子では無かったが、普段に比べれば随分と口数が多かった。呟くような声量だったが、ジオ少将の部下ばかりが集まった酒の席で部下達がジオ少将の言葉を聞き逃すなどということは起こり得ない。少将が口を開いた途端に、静かになる海兵たちはよく訓練されたそれだった。


ジオ少将はどんな経験をされたのだろうか。

静かに話し続けるジオ少将の顔は、海賊に遭遇した時よりも苦々しい表情だ。
あまり表情を変えないジオ少将にしてはあまりにも珍しく、少将がここまで苦悩を感じるほどのことが過去にあったかと思うと言葉の重さが増した気がした。

ふと映った隣に座っている同僚の拳がきつく握られているのを見て、咄嗟に顔を上げると、話を聞いていた海兵皆が真剣な顔でジオ少将を見ていた。

「…お前らはそんな馬鹿なマネをするなよ」

そう締めくくったジオ少将に、ハッとしたような顔をした海兵。
次の瞬間部屋に響いたのは海兵全員の揃った声と敬礼をする音。少将の話を心に刻みこめるように姿勢を正し、敬意を表す海兵たちを見て、少しだけ笑ったジオ少将は海兵たちに酒の席へと戻るよう促したのだった。


──

…あれ、なんか間違った気がする。

酒を飲んだときにふと思い出したのは前に一度大将赤犬と対峙したときに話した内容。
マグマグしてる赤犬さんが俺に言ったお前の正義はなんだ、っていう質問に対して、上手い具合に説明しようとしたにも関わらず、マグマグしてるのを見ていたら焦ってよく分からないことを話した。

俺が言いたかったのは、俺の正義は俺のことを勝手に勘違いしてる周りのことを指したものであって、貴方が背負ってるような大層なものじゃないんだよ〜ってことだったんだが、何処をどうしたらこんなわけわからない文になるのか聞きたい。俺の頭はどうなってる。
確かこれを言った後、意味わからない言葉を言ってしまった恥ずかしさから、その場を立ち去ったんだよ。

この事をいつもよくしてくれてる部下たちに笑い話として提供しようとしたんだけど…

「………」

なぜに静まり返ってる?なにこれ俺また選択ミスった?静寂が包み込む室内の中、部下たちの目線は俺に集中している。え、こんな中「って赤犬に言ったんだよねーミスっちった☆」みたいに言えってか??

無理だろ。


また知らないうちに周りを勘違いさせるようなことをしたらしい自分自身に舌打ちが出た。
それさえも周りに聞こえたらしく、一部の海兵の肩が飛び上がるのを見てどうにかこの場をおさめようと口を開く。

「お前らはそんな馬鹿なマネをするなよ」


…やべ、確実になんか間違った。

一斉に敬礼の形をとった部下たちを見て自分の失態を感じた。おい、ここ酒の席だろ。なんで敬礼なんてしてんのこいつら…。

ひとまず元に戻るよう促した後、苦いものを流すように口に含んだアルコールは、異様に苦く感じられたのであった。

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