▼ ありがとう
朝目が覚めた時に虫の知らせかなんなのか。嫌な予感を感じた。朝の支度をすませ、食堂へと向かう間もどこか付きまとう不快感。特別早い時刻という訳でもないのに食堂にいる忍たまたちの中、普段なら数人ずついるくのたまたちを見かけなかった。
おそらく、その時から。
午前の授業が終わってからの理由昼休みにも。放課後にも。くのたまの姿を見かけない。気にしすぎかと思うと共に増していく違和感に、増えていく戸惑いと嫌悪感。
それをやり過ごすため、学園内の人が少ない部分を選び歩いていた所に、一人近付く者がいた。
「立花」
「…お前は……日咲の同室の…」
その言葉に頷いたくのたまは、食堂などで日咲を見かけたときによく隣にいる日咲の同室の者だった。
仙蔵が何の用かと問う前に静かに渡された文。どういうことかと聞こうとすれば、
「…日咲から、よ。彼女、一昨日の任務から帰って来なかったのっ」
告げられた言葉が過去形の意味は、そう告げた同室のくのたまの目元が赤くなっているのは、ただ一つの事実を示す残酷な現実。
仙蔵が何かを言う前に、その場から立ち去ったくのたまを気にする余裕もなく。
震える手で開いた文。目を見開いた後、息を忘れるような衝撃と、そして
「馬鹿者っ……そんなの……私もに決まっているだろう」
溢れ落ちた声と共に、頬を伝った雫。
仙蔵の言葉に同意する者は、居なかった
─誰よりも日咲のことを、愛していた
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