慎也が撃たれたと聞いた時、私は彼の部屋でお風呂に浸かっていた。
危うくスマートフォンをお湯の中にドボンさせてしまいそうだったけど、それはかろうじて回避。
でも目の前が真っ暗になって何も考えられなくなった。
『ちょっと!聞いてるの?!』
「――聞いてるよ、志恩。それで慎也は?」
『脊髄にドカン。今は意識失ってるみたい。もうすぐここに運ばれて来るわ。』
「――助かる?」
『不吉なこと言わないのよ。デコンボーサーじゃなくてパラライザーだったから大丈夫。それで?いつ来れる?』
「すぐ行くわ。」
『了解。ついでに着替え持って来てあげなさい。明日までは絶対安静よ。』
それだけ聞いて私は電話を切った。
今度こそ手元からスマートフォンが落ちる。
ドボン――、と音がした。
ボコボコと沈んで行くスマートフォンは水没して使えなくなったことだろう。
「――お揃いで買ったばっかりなのに。」
あれはつい一昨日のこと。
二人で手を繋いで出掛けた幸せな日々がまるで遠い昔のように思えた。
「――だから嫌なのよ。執行官なんて…。」
彼はいつだって危険に立ち向かって行く人だから。
君の幸せの為なら僕はなんだってするけれど不幸になれという願いだけは無理です「――不細工。」
慎也の開口一番はそれだった。
くしゃくしゃの涙を浮かべてマスカラとかも滲んじゃって確かにお世辞にも可愛いとは無縁だと自分でも思う。
でも――、こんな時にそんな言葉っていらないと思うのだ。
「――誰のせいよ、バカ。」
「俺か。悪い。夕飯冷めたな。」
「そうよ。今日は奮発してすき焼きにしてたのに。」
「そりゃあ残念だ。」
ベッドに横たわったまま軽口を叩く慎也に、私は再び涙を浮かべる。
「良かった――。無事で。」
「俺は死なないよ。言っただろ?俺は魔法使いだって。お前の為なら死の淵からでも生き返ってやるさ。」
「――バカ。」
貴方が魔法使いだと言うのなら、一つだけで良いから。
他には何も願わないから――、側にいて下さい。
そう願ったのは何度目なのだろう。
「――俺は後何回そうやってお前を泣かせるんだろうな?」
「もうこれっきりにしてよ。涙が枯れちゃうわ。」
「はは。それは困るな。どうせなら幸せな涙でも流せ。」
「え?」
「上着のポケット。開けてみろ。」
慎也の指が椅子に掛かっていたジャケットを指差す。
私は言われるがままにそれを手に取った。
「――コレ。」
そこから出て来たのは小さな箱。
その中に嵌まっていたシンプルなシルバーリングの意味は私が考えてるのと同じで良いのだろうか。
「魔法その2。俺はお前を幸せにするよ、絶対に。」
「――魔法使いだから?」
クスクスと笑いながら涙を流せば、慎也はフッと笑った。
「動けないってのは辛いな。お前の涙も拭えない。」
「――早く良くなって。そしてこの指輪を私に嵌めてね?」
だって君の幸せって即ち僕の幸せだからね『――あのさぁ。お二人サン。モニターで見てるこっちの身にもなってくんない?』
水を差すように志恩の声が聞こえて、思わず監視カメラを叩き割ったのはまた別の話。
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スプーンひとさじの魔法を君に:企画提出作品
PSYCO-PASS//狡噛慎也
素敵な企画に参加させて頂き有難うございました!
2012/12/01 天月レイナ拝
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