愛とは何であるのか。
そんな人間の永遠のテーマである事を考えてしまうのは、私が弱いからなのか。
「そんなに難しい顔をしてどうしたんだい?」
「大殿。――別に何でもないです。」
「何でも無いなら話して見ないかい?年の功で何か役に立てるかも知れないよ?」
ふわりと大殿の香りが香ったと思ったら、次の瞬間には彼の腕の中にいた。
元就はそのぽわんとした笑みの中に、何とも言えない獰猛さを兼ね備えていると名前は思っている。
「――大殿。愛ってなんでしょうねぇ。」
「愛?また名前は難しい事を考えるね。どうしたんだい?急に。」
「いえ。ただふと思ったんです。この世に永遠なんてものはなくて。でも愛は永遠だと誓うのでしょう?人間って難しいと思いませんか?」
「なるほど。名前の言う事も一理あるね。」
名前の髪を梳きながら、元就はうーんと考え込んだ。
「――先が分からないから人は永遠を願うんじゃないかな?」
「でも大殿。人間はいつか死ぬわ。だから永遠なんてないじゃない。」
何とも現実的な事を言う娘だと思った。
いつもふわふわと浮かんでいるようで、彼女は誰よりも現実を生きていた。
「う〜ん。じゃあ、名前はいつか私の側を離れるかい?」
「まさか。大殿の側を離れるぐらいなら死ぬわ。」
その答えに元就は口角が上がるのを隠せない。
嗚呼――、何と可愛らしい事だろう。
「ならきっとそれが答えだよ。」
「――?大殿の仰る事は難しくて分からないわ。」
「君は私の側を離れる事は無いと言った。それがきっと永遠の始まりだよ。」
「いつか終わるとしても?」
「あぁ、そうだよ。死が二人を分かつまで。――それが人間の永遠だ。そして死んでも、魂が一緒なら。そのまま転生したら。そう考えたら永遠もあると思わないかい?」
「輪廻転生ですか?大殿は意外と信仰心が深いのね。」
「そうかな?――この年になると死んだ後の事も考えてしまうんだよ。」
苦笑混じりに言えば、腕の中の名前が急に真剣な目を向けた。
「名前?」
「嫌です。大殿が先に逝くなんて――、許さない。」
嗚呼――、愛しき君よ。
きっと愛しさで人を殺せるのならば、君は今すぐ私を殺してしまうのだろう。
「愛は死よりも強く、死の恐怖より強い。」byツルゲーネフ
「じゃあ名前は、私が死ぬ時は一緒に死んでくれるかい?」
「喜んで。その手で私を殺してね?」
「嬉しいよ。」
人はこの感情を狂っていると言うのだろうか。
でもそれでも構わなかった。
これだって一つの永遠の愛情の形。
「でも名前。永遠を願うのも良いけれど、今は二人の時間を大事にしようか。だって私たちは生きているんだからね。」
「――はい。」
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愛の格言より
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