「ね〜、小十郎さん。」
「あぁ。」
「聞いてる?」
「あぁ。」
「今日良い天気だね。」
「あぁ。」
「お腹空かない?」
「あぁ。」
「私の話聞いてないでしょ?」
「あぁ。」
それはいつもの何気ない日曜日だったのだけれども。
名前は小十郎のその態度に酷く苛立っていた。
仕事が忙しいのも分かる。
それでもちゃんと私を家に呼んで相手をしてくれるだけ良いと思うべきなのも分かっている。
けれどもこうも相手にされないと私がいない方が良いんじゃないの?と――。
そう問いたくなる女心をどうか分かって欲しい。
「――政宗と浮気して来てい〜い?」
「あぁ。――は?」
カタカタとパソコンを打つ手を止めて、小十郎はようやく名前を振り返る。
今何っつった、この女――?
「おい、名前――。」
「あぁ、そう。ふ〜ん。良いんだ、私が政宗と浮気しても!」
「おい、ちょっと待て!」
「小十郎さんなんか大嫌い!!」
「名前――ッッ!何だ、今日は。厄日か?!」
飛び出して行った名前に、小十郎は眼鏡を置いて深いため息を吐いた。
******
「――で。俺んトコに逃げて来たって訳か?」
「だって!!酷いでしょ?!」
「Ah…、とりあえず鼻水拭けよ。汚ェな。」
政宗はベッドから身体を起こせば、ティッシュを取って渡してやる。
その小さな肩を小刻みに震わせながら泣いている名前に思わず苦笑してしまう。
「お前、いつも一人で忙しいよな?怒ったり泣いたり笑ったり。」
「うるさいな!大体、政宗が仕事を溜め込むから小十郎さんが困るんでしょ!」
「Shit!八つ当たりすんな!」
「八つ当たりじゃない!」
丸めたティッシュを投げられて、政宗は大きなため息を吐く。
「――OK,kitty.俺が悪かった。」
「何よ、急に?」
突然しおらしくなった政宗に、名前は眉根を寄せる。
ズイッと近付いて来る彼に、名前は本能的に後ろへ逃げる。
「――お詫びに浮気相手になってやるよ。」
「言うと思った!このケダモノ!」
「分かってて来たんなら遠慮はいらねぇな。」
「ぎゃあああ!離せ、変態!」
バタバタと暴れているところに、タイミング良くドアが開く。
「――政宗様。お戯れはそれぐらいに。そいつは引き取ります。」
「小十郎さん!」
「ようやく来たか。さっさと連れて帰れ。」
まるで荷物のように投げられて、名前は小十郎の胸の中に落ちる。
「――名前、帰るぞ。」
「――。」
黙ったままの名前に、政宗は苦笑する。
「小十郎。たまには構ってやらねぇと猫は拗ねるぞ。」
「――肝に銘じます。」
小十郎は軽く会釈をすれば、名前の手を引いて部屋を後にした。
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「名前。いい加減、機嫌を直したらどうだ?」
「――別に。だって小十郎さんは私が政宗と浮気しても構わないんでしょ?」
「あのなぁ…。」
こんな子供染みた事をして馬鹿みたい。
頭では理解しているのだけれど、どうにも感情が言う事を聞いてくれない。
呆れたような彼の顔が怖くて、名前は後ろを振り向けずにいた。
「名前、取りあえずこっちを向け。」
「――嫌。」
「名前。」
抗えない声で彼は私の名を呼ぶ。
仕方なく下を向いたまま振り返ろうとしたら、そのまま正面から強い力で抱き締められた。
前からぎゅっ、て。「こじゅ、ろ…!」
「すまん。俺はお前に甘えていたようだ。」
「――なんで小十郎さんが謝るのぉ…!」
「俺が悪かったから機嫌直せ。」
さっきまでのもやもやがどこかへ吹き飛んでしまった。
嗚呼――、我ながら何て単純な思考回路。
愛しさの次に込み上げて来たのは、純粋な罪悪感だった。
「ごめんなさ…!浮気なんて嘘よ…。する訳ないじゃない。」
「知ってる。――名前、機嫌直してくれるか?」
「とっくに直ってる…。小十郎さん、大好き。」
仲直りのキスは、涙の味がした。
(――で。お前にはお仕置きが必要だな?)
(え?)
(俺を試すような事しやがって。しかも政宗様を使って)
(ちょ!小十郎さん、さっきと態度違う!!)
(覚悟しろよ、名前)
(いやぁぁぁ!)
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片倉小十郎夢企画「煌メク空」:企画提出作品
御題配布元:
Traum der Liebe素敵な企画に参加させて頂き有難うございました!
2012/08/04 天月レイナ拝
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