最早記憶は遠い彼方。
最初、私はこの男を憎んでいたはずだった。
「どうした?もう俺を罵らねぇのか?」
男が酷く楽しそうに笑う。
男の名は伊達政宗と言った。
「――最低よ、アンタなんか。」
「そうか。」
「――絶対、好きになんてなってやらない。」
「そうか。」
言葉とは裏腹に込み上げて来る感情は何とも不適切極まりないものだった。
それを知っているのだろう、この男は。
『そうか』と頷きながらも、ニヤニヤと楽しそうに笑っていた。
「他に言う事はねぇのかよ?」
そっと政宗の手が頬に触れる。
その強引な言葉とは裏腹に触れた手は酷く優しくて、気持ちのコントロールが出来なくなってしまう。
伊達政宗と言う男と出会ったのは、戦場だった。
当時、真田忍隊にいた私は主の敵であるこの男を暗殺しようと陣地に潜り込んだ。
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「伊達政宗、その御命頂戴仕る!」
「Ha!威勢の良いkittyだな。」
それは完璧な作戦であったはずだったのに。
寝込みを襲ったはずの私は、気付けばこの男の下に組み敷かれていた。
「離せ!」
「それは聞けねぇ相談だ。猿の奴、随分とcuteなkittyを飼ってやがる。」
「長の事か、それは!」
「Ah?何だ、お前。アイツに惚れてんのか。」
鋭い視線で睨み付けてもこの男は揺らがなかった。
それどころか命を狙われていると言うにも関わらず、酷く楽しそうに笑っていた。
「――貴様に関係ない。」
「良いねぇ。その気の強いところ。傅かせたくなるぜ。」
「誰が――、ッッぐぅ!」
「おっと。舌を噛むのはナシだぜ。お前は殺さねぇよ。」
「ぐぅぅ!」
口に突っ込まれた指を噛み千切ろうとするが、この男は動じない。
口の中に血の味が広がって、不愉快極まりなかった。
「アンタの前に、大事な男の死体を差し出してやるよ。」
何とも悪趣味な事を言い放った男は、数日後本当に佐助と幸村の死体を私の前に差し出した。
あの瞬間、私は生きる意味も全てを失ったのだ。
人間には憎悪や不快を忘れさせてしまう性質がある――なのに、
あろうことか私は未だに生きていた。
この男の側で。
「――kitty.こっち向けよ。」
「嫌。」
「無理やりが良いんならそう言え。」
「何でそうなるのよ!」
「やっと向いたな。」
まんまと罠にはまった私は、正面からこの男に向き合う羽目になる。
片目を眼帯で覆われているにも関わらず、この男は酷く整った顔をしていた。
思わず視線を反らしたくなるが、それは政宗の手に顎を掴まれている為に叶わなかった。
「――離してよ。」
「良いぜ?俺の事を愛してると言ったらな。」
「誰が!」
「いつまで意地を張るつもりだ?もうお前に他に生きて行く術はねぇだろ?」
それは真実だった。
主を失い、帰る場所も失い、忍として生きる術すら失った。
今ではこの城で飼い殺しにされている始末。
ただ不思議なのは、この男は決して私を地下牢に繋いだりはしなかった。
まるで姫君にでも与えるような着物を纏わせ、常に自分の側に置いていた。
動物だってずっと側にいたら情が移ると言う、が。
きっとこれだってそれと同じなのだ。
あれだけ残虐非道に思えた男が、時折優しい一面を見せたりするから。
――絆されただけなのだと、自分に言い聞かせた。
「――愛してる、から。離して。」
「やっぱりやだね。」
「嘘吐き!」
「俺も愛してるぜ。」
それは真実なのかはたまた嘘なのか。
きっと問い質したところで、上手く交わされるのがオチなのだ。
だから私は今日もこの曖昧な場所で曖昧に生きて行く。
(知ってるのよ)
(私に死体を見せた後、)
(貴方がきちんと二人を埋葬していたことを、)
(残虐なのか、優しいのか)
(決して底を見せない貴方は酷い人ね)
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人間論:企画提出作品
戦国BASARA:伊達政宗
素敵な企画に参加させて頂き有難うございました!
2012/06/26 天月レイナ 拝
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