今日も清々しいまでの晴天だった。
でも今の名前にはその無垢な太陽さえ憎らしく思えたのだった。
「――Hey,名前。そのツラ、可愛くねぇぞ。どうにかしろ。」
「お生憎様です、殿。名前は元よりこの顔にございますゆえ。」
「ッチィ!口の減らない嫁だな、お前は。」
「その口の減らない女を嫁に貰ったうつけ者は殿でございましょう。」
「Shut up!」
これ以上の問答をしては負けると政宗は思った。
見た目は可憐、喋れば男よりも口が達者。
そんな女に惚れた自分が一番のうつけかと確かに政宗は思った。
一目見た時に手に入れたいと思ったのは、宿敵である真田幸村の姉。
同盟の証だなんだと理由を付けて無理矢理嫁に貰ったのは何年前の事だろう。
そして月日は流れて、気付けば武田とは敵対するに至った。
「――なぁ、名前。俺を恨むか?これからお前の弟と戦いに行く俺を嫌いになるか?」
抱き寄せたまま耳元で呟く政宗の声が酷く弱々しく聞こえて、名前はため息を吐いた。
「おやおや。今日の殿は妙に殊勝でいらっしゃること。」
「茶化してんじゃねぇよ!」
「――嫌いになる、と。そう答えたら満足ですか?」
いつもより少し低い声音で問えば、政宗は抱き締める手により一層力を込めた。
「――嫌だ。」
「今日の殿は難しいこと。まるでやや子のようですわ。」
ふふっといつもと同じ優しい声音で笑う名前に、政宗はようやく身体を離す。
「――俺を嫌いにならないか?」
「何故?こんなにも愛している殿を嫌いになれと言う方が無理難題でございますよ。」
「では何故、お前は怒ってたんだよ?」
心底不思議そうな政宗に、名前は大袈裟なため息を吐いて見せる。
「殿が私を見くびるからですわ。私だって武家の娘。この戦国乱世ですもの。実家が敵になろうともそれは運命と理解しております。なのにそれ如きで私が殿を見限るような事を申されるから――。」
「――Sorry.」
「そんなに私の愛は脆く感じましたか?」
「いや――。すまねぇ。俺が弱かっただけだ。」
そっと政宗の頬を撫でれば、彼は申し訳無さそうに笑った。
いつもは自信満々な顔をしているのに、不意に見せるその弱々しい顔がどうしようもない愛しさを誘った。
「例え弟を討ったとしてもお前は俺を愛せるのか?」
その言葉には答えず、名前はそっと政宗に顔を預けた。
「――政宗様。一つだけ約束して下さい。必ず私の元へ帰って来て。そしてその胸で泣かせて下さい。」
「I promise.――必ず、だ。泣くなら俺の胸で泣け。」
「――はい。」
「おかえりなさい」を伝えたくて(涙の一筋まで、)(この愛は貴方へ捧ぐと誓いました、)
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恋路十六夜:企画提出作品
素敵な企画に参加させて頂き有難うございました!
2012/01/23 天月レイナ
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