「もしも明日世界が無くなるとしたら、佐助はどうしたい?」


不意に君がそんな言葉を紡ぐから、俺は何と答えるべきか迷って空を仰いだ。


「変な名前。急に何でそんなこと聞くの?」

「ん?ただの興味本位。明日世界が無くなったら佐助はどうする?」

「そうだなぁ。別に普通で良いや。いつものように起きて飯食って寝る。で、世界が終わってたら良い。」

「そっか。」


その表情から彼女の真意は読み取れなくて、佐助は横に座る名前の頬を優しく撫でた。


「そう言う名前は?どうしたいの?」

「私?――私も佐助と同じ、かな?でもその時には隣に佐助がいて欲しいな。」

「うん。俺様もだよ。最後の時までお前が横にいて抱き締めて死ねたらそれが一番幸せだと思う。」

「嬉しい。じゃあ私達の願いは一緒だね?」


――胸騒ぎがした。
無邪気そうに喜ぶ笑顔の裏に、何かがあると佐助の本能が告げていた。


「――名前?」

「佐助。だったら私の願い、叶えてくれるよね?」

「どう言う、意味?」


聞きたい、聞きたくない、言って、言わないで、
相反する心の叫び声に佐助は壊れてしまいそうだった。


「――私、後3ヶ月の命なんだって。」


何かのついでのように紡がれた言葉を理解するのにしばしの時間を要した。


「――は?」

「だから。余命3ヶ月なんだって。」

「嘘、だろ?」

「こんなタチの悪い冗談、言うと思う?」


名前は笑っていたけれど、目が笑っていなかった。
逆にそれが真実だと伝えていて、佐助は許されるならいっそ大声で泣きたいとさえ思った。


「――俺、は。」

「何もしなくて良いよ。ただ最後の日まで側にいて。」

「――分かった。」


何て残酷な願いをするのだろうと、そう思った。









が消えてなくなるまでの秒でキスを交わそう











「名前、朝だよ〜?」


いつものように陽が上ったと同時に目が覚める。
横に眠る名前を揺り起こすが、今日に限って返事が無かった。


「――名前?」


ドクン――、と。
跳ねる心臓を押え付けて名前の頬に触れれば、その身体は冷たかった。


「――あぁ。『約束』が果たせたのか。」


それは余りも穏やかに訪れた『死』と言う名の『永遠』で。
佐助はどうしたものかと思う。
泣くことすら憚れるように、名前は幸せそうな顔をして目を閉じていた。


「――このまま後を追うのも悪くないんだけど、ね。」


だって君のいない世界なんてただの白黒の世界でしか無くて。
人を殺してばかりだった俺の世界に色をくれたのは間違いなく君だったのだから。


「だけど――、もう少しだけ生きてみるよ。だってそうじゃないと名前は怒るだろ?」


もう二度と開かないはずの名前の目尻に涙が零れる。
それが自分の目から零れた涙だと気付くのに少し時間が掛かった。


「――名前。少しの間だけ一人で待っててよ。俺様がそっちに行くまで、さ。」


ポタポタと流れ落ちる涙を拭う事もなく、佐助は言う。
溢れ出る涙は初めてに近い感覚で、それでも不快なものではなかった。


「――愛してるよ、名前。」


そっと触れた唇は冷たかった。


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Dear:みどりさま。
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