「譲くんてさ、可愛いよね。」
…は?
名前先輩は笑顔でそう告げた。
可愛いなんて男の俺からすれば嬉しくないのに。
「だって料理は上手いしさ。可愛いんだもん。」
クスクスと笑いながら罪のない笑顔で言う先輩。
なんて残酷でなんて愛しいんだろう。
「確かになァ。譲はカッコイイって言うより可愛いかもな?」
兄さんまで同意をするように頷く。
なんだか俺は情けなくなってその場を後にした。
「あ、譲くん!」
「ほっとけ。拗ねたんだろ。」
「でも…。」
後ろで先輩と兄さんの声が聞こえる。
だけど立ち止まる気にはなれなくて俺はその場を後にした。
「…俺だって好きでやってるわけじゃないよ。」
カレーを煮込みながら文句を言う自分が情けなくなる。
だって。
誰もやらないんだから俺がやるしかないじゃないか。
半ば自棄になりながら作っていると後ろに控え目な物音が響いた。
「…えと。譲くん、何か手伝おうか?」
先輩が遠慮がちに問い掛けて来る。
「…別に大丈夫ですよ。先輩。兄さんと待ってて下さい。」
つい刺々しくなる。
こんな奴のどこが可愛いんだか。
「やっぱり。譲くん、怒ってるでしょ?可愛いって言ったから?」
「別に…。」
先輩は狡い。
分かってて聞いてるんだろ。
「ねぇ、譲くん…。」
その瞬間何かが音を立てて切れた。
無意識に身体は反転して。
気付けば先輩の手を取って口付けていた。
「ゆず…、るくん?」
熱い吐息を絡ませながら唇を離せば先輩の目に戸惑いが見える。
「…これでも可愛いなんて言えるんですか?」
今思えばなんて子供じみた抵抗なのか。
何事も無かったかのようにカレーを作り始めれば後ろから笑い声が聞こえた。
「あは…、あはは。」
「何が可笑しいんですか?!」
ぐるりと振り返れば視界一面に先輩の顔。
そして。
唇に暖かい衝撃。
「…ッッ?!」
時が止まった気がした。
呆然と固まる俺に先輩が言った一言。
「やっぱり、譲くんは可愛いよ。」
貴女は狡い。
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相互リク
『PARANOIA』管理人・邑乃朱霖様へ。
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