「げほっ、ごほっ。」
「ったく。だから腹出して寝るなっつっただろうが。」
「腹なんて出してない…、げほっ!」
「――黙って寝てろ。風邪だろう。八戒を連れて来る。」
呆れたような三蔵の声に、名前は大人しく頷いた。
最近野宿が続いて気を張っていたせいか、久し振りに宿で寝られると思ったらこれだ。
情けないやら辛いやらで、名前は涙が溢れて来る。
その瞬間、扉が開いた。
「名前、体調はどうですかって…。何で名前が泣いてるんです?三蔵、何か余計なこと言ったんでしょう?」
「はぁ?俺じゃねぇよ。」
三蔵は怪訝そうに言いながら八戒の後ろから名前の顔を覗く。
名前は慌てて涙を拭った。
「違うの、これは…。ごほっ!」
「あぁ、無理して喋らないで下さい。失礼しますよ。」
八戒が額に手を置けばひんやりとしていて名前は思わず目を閉じる。
「八戒の手、気持ちい〜。」
「熱がかなり高いですね。三蔵、いつからなんです?」
「俺に聞くな。夕べまでは普通だった、――多分な。」
横で煙草に火を点けながら言えば、八戒の笑みが黒くなる。
「三蔵?病人の前で煙草はやめて下さいね?」
「――ッチ。」
「ごめんね、三蔵?」
申し訳なくなってそう言えば、八戒が笑う。
「名前は気にしなくて良いんです。それよりお粥作って来ましたから食べて下さい。それ食べたら薬飲んで寝て下さいね?」
「はぁい…。」
「三蔵、後は貴方に任せて良いですね?」
「――あぁ。」
面倒臭そうに答えながらも重い腰を上げた三蔵に名前は嬉しくなる。
八戒が出て行った後で、三蔵はお粥の器を取る。
「ホラ、食え。」
「ね、あ〜んして?」
「テメェ…。」
ピタッと手を止めた三蔵に、名前の悪戯心がくすぐられる。
「こう言う時ぐらい甘やかしてよ。」
「――治ったら覚えてろよ、貴様。」
「三蔵が病気になったら同じようにしてあげる。」
「いらん。」
三蔵はそう言いながらもレンゲにお粥を取って口元に運んでくれる。
「あ〜ん!――美味しい。」
「だろうな。八戒が作ったんだ。」
流石に三蔵に言わせるのは酷だったので名前は自分で言う。
そのまま何回かに分けて食べ終われば薬を渡される。
「さっさと飲んで寝やがれ。煙草が吸えんのは敵わん。」
「――側にいてくれる?」
「分かったから。さっさと寝ろよ。」
乱暴に布団を掛けられ、その手が優しく頭を撫でる。
名前はそのままゆっくりと眠りに付いた。
気付いた時には、君の世界「――寝たか。ったく。具合が悪いならさっさと言えっての。」
頬を撫でながら三蔵はむすっとした声で言う。
朝起きて具合が悪そうになっていた名前を見付けた時の心境をきっとコイツは永遠に知らないのだろう。
生きた心地がしなかったのだといつか言ってやりたい。
「起きたら――、覚えとけ。」
三蔵は言葉とは裏腹に優しい声音で言えば、そっと眠る名前の額に口付けた。
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499999Hitキリリク/蘭さまへ。
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