「先輩、今エェですかァ?」

「白石。また抜けて来たの?いい加減怒られるわよ?」

「平気平気。だって苗字先輩がかばってくれはるんやろ?」

「もう調子が良いわね。」


そうは言いつつも絶対に邪険にしないのがこの人だった。
苗字名前先輩は、俺達四天宝寺テニス部で唯一のマネージャー。
優しくて気が利く、そして可愛いなんて。
マネージャーの鏡のような人だった。
そう言う俺も例外なく苗字先輩に惚れていて。
何やかんやと理由を付けては先輩の側に近付いた。


「白石、飴あげようか?」

「いる!くれはるんですか?」

「私があげるって言ってるのに、その質問は変だわ。」


クスクスと笑う苗字先輩が酷く可愛かった。
差し出された手を握ってしまおうかと思ったが、それは諦めて大人しく飴を受け取る。


「おおきに。大事にしますわ。」

「バカ。早く食べちゃいなさい。他の人のはないんだから内緒よ?証拠隠滅してね?」


嗚呼――、ホンマにこの人は俺の心を掻き回すんが上手い。






っぱいのはの味?







「――苗字先輩。お願いがあるんですけど。」

「ん?何?」

「…名前先輩、って呼んでエェですか?」


それがこの時の俺の精一杯やった。
ゴクリと自分が息を呑む音がやけに耳に響いてらしくないなとも思う。
一瞬だけ目を見開いた先輩はすぐに笑ってこう言った。


「良いよ。じゃあ私も蔵ノ介って呼ぼうかしら?」

「ホンマですか?!なんなら蔵でエェですよ。俺の名前長いし。」

「分かった。じゃあ蔵にする。」


名前先輩の口から俺の名前が紡がれる。
それは何と幸福な瞬間なのだろうと思った。


「――名前先輩。」

「あ、蔵!バレたわよ。早く戻りなさい?」


コートでは俺がいないのがバレたらしく先輩達が怒っているのが見えた。


「――ちぇ。仕方ないかァ。」

「終わったらまたお話しよ?」

「じゃあ先輩、今日一緒に帰ってくれはりますか?」

「分かった分かった。待ってるから早く行きなさい。」

「約束ですよ?!」


念を押せば名前先輩は苦笑混じりに頷いてくれたので俺は酷く嬉しくなった。
それは秋の空気が入り始めた頃。
俺がそれを初恋だと理解するのは、もう少し先の事である。


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誰でも最初は:企画提出作品。
素敵な企画に参加させて頂き有難うございました。
2011/09/22 天月レイナ拝



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