「――ごめんなさい。」


彼女はそう言って俺に謝った後で、静かにその刃で俺の心臓を貫いた。



























名前と言う女がいた。
その女は突然俺の目の前に現れて、そして見事に俺の心を奪って行った。
きっと世に言う一目惚れと言うものに当て嵌まるのだろう。
俺が名前に恋に堕ちるのに、時間はそう掛からなかった。
ある日突然目の前に現れて、いつの間にか懐に入り込んでいた。


「――ねぇ、政宗。私のこと、好き?」


ニコニコと屈託の無い笑顔で問う名前は心の底から可愛いと思った。


「当たり前だろ。世界で一番愛してるぜ。」

「ふふ。良かった。私も政宗が世界で一番好きよ。」

「I LOVE YOU,Honey?」

「Thanks,Darling?」


甘い恋人の睦言のようにじゃれ合う時間がとても好きだった。
だから――、彼女が俺に刃を向けるなんて思いもしなかったのだ。


「――Shit!名前、何で…。」

「ごめんなさい、政宗。私のこと愛してるなら、私の為に死んで?」


酷く歪んだ笑顔で言う名前の顔が霞んで行く。


「お前は――、誰だ?」


刺された心臓を抑えながら、必死に意識を留める。
手にはドクドクと生暖かい血が溢れていた。


「私?私は――、忍よ。独眼竜。」

「チィ!刺客だったのか――。」


嗚呼――、俺とした事が。
何たる大失態。
彼女に殺気と言うものを感じなかったが故に、油断をしていたのだ。
名前は酷く妖艶な笑みを浮かべて笑った。


「ごめんね、政宗。愛してる。」

「――皮肉だな、名前。」

「そうね。本望でしょう?愛した私の手に掛かって。」


クスクスと笑いながら名前はその手を伸ばして俺の頬に触れる。
心のどこかで名前に殺されるのならそれでも良いと思っている俺はきっと末期だ。


「――最後に教えろ。お前は誰に雇われた?」

「そうね。最後だから教えてあげる。私はね――。」


名前の口が動く。
けれどその言葉が耳に届く前に、俺の意識は途絶えた。










どうせなら、とっておきのカンタレラで殺して









「――さよなら、政宗。」


腕の中で果てた愛しい男に名前はそっと口付けた。


「――名前。首尾は?」

「任務完了よ。独眼竜は死んだ。」

「確認した。足が付く前に戻れ。」

「了解。」


それだけ言えば、名前はそっと政宗の死体をその場に寝かせる。


「――愛してた、よ。」


それは決して届くはずの無い言葉。
愛した男をその手で殺した忍は静かにその場から姿を消した。



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:企画提出作品。
素敵な企画に参加させて頂き有難うございました。
2011/09/21 天月レイナ拝


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