「おめでとうございます、3ヶ月ですね。」
「――え?」
それは願っても無い言葉だった。
理解が出来ていない私を諭すように、天霧さんは優しく笑ってくれた。
「妊娠――、されてますよ。良く頑張りましたね。」
「にん、しん…?」
まるでうわ言の様に呟いた私に、天霧さんはそっと頷いてくれた。
「風間に知らせてあげて下さい。きっと喜びますよ。」
「――はい。」
季節は秋に差しかかろうとしているのに、私の心は晴れやかな春だった。
君色スケジュール「三ヶ月、かぁ。」
そっとお腹を擦れば、何故だか暖かい気がした。
「ようやく来てくれたんだね。」
まだ性別すら分からない子供に名前はゆっくりと話し掛けた。
夫である風間千景と結婚して3年。
ずっと子供に恵まれず、半ば諦めていた時だった。
彼は気にしなくて良いと言ってくれたけど。
財閥の御曹司である千景には跡取りが必要だと分かっていた。
「私の覚悟が通じたのかしら――。」
公園のベンチに座れば、空を仰いで呟く。
このまま子供が出来なければ、私は彼の元を去るつもりだった。
「――私、まだあの人の側にいても良い?」
そっと腹を撫でれば、返って来るはずのない声が聞こえた。
「当たり前だろう、バカ者。」
「ち、かげ?」
後ろを振り向けば、少しだけ息を切らした千景がいた。
「どうして…、仕事中じゃ?」
「抜けて来た。天霧から連絡があってな。何故すぐに俺に連絡しなかった?」
「だって…。帰って来たらゆっくり話そうと思って…。」
そう言えば、強引に千景の腕に抱き寄せられる。
「――名前。有難う。」
「…有難うって言ってくれるの?千景…。私、産んでも良い?」
ダメだと言われる理由などなかったが、改めて問うて見たくなった。
「当たり前だろう。――良かった。」
「うん…。――千景、愛してる。」
「あぁ。俺もだ。帰るぞ。身体を冷やすな。」
「――心配性ね。」
そっと彼の手が優しく腹を撫でてくれたので、名前はその手を握った。
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