まるでそれは衝撃と呼ぶに相応しい出会いだった。
俺が名前と言う女に出会ったのは1年前。
全てが退屈で全てがモノクロだった俺の世界に、名前は色を灯した。
それが世間では所謂『一目惚れ』と呼ばれるものだと気付くのに、俺は半年時間を要した。
恋なんて自分の人生に余り必要無いと思っていた。
どうせ適当な歳で相応の女と見合い結婚でもするのだと、そう思っていた。


「千景!またそんなところで寝てる!てかそもそも何で勝手にウチに入ってんのよ!」

「――ようやく帰ったか。」

「返事になってない!」


ぎゃあぎゃあと叫ぶ名前の言葉を流しながら、俺は起き上がる。
友人と呼ぶには酷く不快だが――、土方の友人だった名前を無理やり紹介させてから1年。
恋人と呼ぶにはまだ何かが足りないが、名前との距離はだいぶ縮まったと思う。
こうして名前がいない間に家に上がり込んでも文句は言われなくなった(横で怒鳴っているのは無視!)


「歳三に言い付けなきゃ。」

「おい。」

「何?」


横の部屋で着替えている名前にお構いなしに扉を開ければ、姫はギョッとする。


「きゃああ!変態!何、考えてんのよ!」


慌てて自分の身体を隠す名前に加虐心が煽られて、その腕を引っ張って自分の腕の中に閉じ込める。


「ち、かげ!冗談は止めて離して!」

「冗談だと思うか?」


耳元で囁けば、名前はビクリと身体を震わせた。


「――訳分かんない。何なのよ、アンタ…。」

「それはこちらの台詞だ。お前は一体俺の事を何だと思っている?」

「ハイ?」


意味が分からないとばかりに名前の顔がクエスチョンマークを浮かべる。


「――こうして側にいる事は許す癖に俺のモノにはならない。挙句に土方の名前など出して…。そんなに俺の気持ちを弄んで楽しいか?」

「ハァ?!ちょっと待ってよ!それはあたしの台詞でしょ?!気まぐれにウチに来てはいなくなって!何なの、アンタ!あたしは都合の良い女じゃないのよ?!」


どうにも噛み合わない会話に、千景は首を傾げた。


「――つまり。俺とお前は両思い、と言う事か?」










追跡ごっこの恋











「両思い、って――。何だろう、もの凄くむず痒いわ…。」


見る見る間に真っ赤になって行く名前の顔に、千景も不意打ちを喰らう。


「――おい。勘違いしないように言っておくぞ。俺はお前が好きだ。」

「ちょ…!いきなり言わないでよ!心の準備ってのがあるの!」

「そんなものはいらん。お前は黙って頷いたらそれで良い。」

「横暴!」


まだ喚き立てる名前の顎を掴めば、強引に口付ける。


「うぅん…。」

「――名前。返事は?」


優しい声音で言ってやれば、名前は悔しそうに頷く。


「これでお前は俺のモノ、だな。」

「――て言うか、いい加減着替えさせてよ。」


腕の中の名前の格好に、俺は思わず笑った。


「そのままでも良いが?」

「うるさい、変態!」


暴れる名前が可愛くて再度抱き寄せたら、思い切り殴られてしまったのはまた別の話。


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