『オールハイル・ルルーシュ!!』
その言葉を私はどこか人事のように聞いていた。
テレビに映っているのは、私の知っているルルーシュでは無い気がした。
神聖ブリタニア帝国第99代皇帝、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアは私の恋人だった。
「…ルル。」
テレビの向こうで皇帝の椅子に足を組んで堂々と座るあの人を私は知らない。
知っているけど知らない。
それは奇妙な感覚だった。
「――名前。見付けた。」
「…スザク?」
そこにいたのは先程までテレビに映っていたナイト・オブ・ゼロこと枢木スザクであった。
「――ナイト・オブ・ゼロがこんな場所に何か御用?」
「分かってるんだろう。君を迎えに来たんだ。皇后陛下。」
「――何を言っているのか分からないわ。」
「現実から目を背けてはいけないよ。君の恋人であるルルーシュはこの国の皇帝になった。それがどう言う意味か分かるかい?」
「分からないわ。だってルルは私に何も言ってくれなかったもの。」
テレビから流れて来るルルーシュの声は、いつもより低くて自分が知らない彼であると物語っていた。
「とにかく同行願う。皇帝に勅命を受けて僕はここにいるんだ。拒否をするのなら反逆罪になるよ。」
「――分かったわ。」
拒否権など無く、名前はゆっくりとテレビを消して立ち上がった。
地面に落ちたねがいごと酷く長い廊下に、二人分の踵の音が嫌に響く。
やがて前を歩くスザクの足が止まった。
「…ルルーシュ。連れて来たよ。」
「入れ。」
すぐに返答が返って来て、スザクはゆっくりと扉を開く。
「――どうぞ、皇后陛下。」
「…その呼び方は止めて頂戴、スザク。」
恭しく礼を取るスザクに、名前は嫌悪感を露にする。
「――スザク。下がっていろ。」
「イエス・ユア・マジェスティ。」
ルルーシュの命令に、スザクは答えて部屋を出て行く。
取り残された名前はどうしたものかとその場に立ち尽くす。
ルルーシュの顔は逆光に照らされていて見えなかった。
「…名前。おいで?」
優しく掛けられた声は確かにルルーシュのもので、名前はゆっくりと彼の元へと行く。
「ルル…。」
「ゴメン。何も言わなくて。驚いたよな?」
「驚いた…。ルルが皇帝なんて…。どうして?」
「これしか方法が無かった。ブリタニアを壊すには自らが王になるしか無かったんだ。」
抱き締めながらルルーシュは悲痛そうに言う。
そんな彼は間違いなく自分が愛した男だと思った。
「…スザクは?」
「スザクとは既に話し合ってる。俺達の望む世界を作る為に、アイツは俺の騎士になった。」
「そうなんだ…。」
理由はどうあれスザクとルルーシュが手を取り合ってくれたのは名前にとって嬉しい事だった。
「名前――。俺はこれからブリタニアをぶっ壊す。その為に皇帝になった。お前にも側にいて欲しい。」
「うん…。」
「風当たりもあると思う。でも俺が守るから。」
「うん。」
それ以上、何も言えなかった。
――時間が無い事が分かっていた。
「ルルーシュ。私は側にいるよ。最後の時まで。」
「――有難う。」
例えこの先貴方が目指している結末が、私の望まぬものだったとしても。
←