鳥籠の中にいるのだと気付いた時には既に翼はもがれていた。










翅をもがれた蝶々の結末














「お早う、名前。目が覚めたかい?」

「――シュナイゼル様。」

「『様』はいらないと言っているのに、君は律儀な子だね。」


クスクスと笑いながら眉目秀麗な神聖ブリタニア帝国宰相である第二皇子シュナイゼル・エル・ブリタニアはそっと名前の頭を撫でた。
この人の元に突然自分が現れてからどれぐらいの時が経ったのだろうかと名前は思う。
似て異なる世界に飛ばされたと気付いたのは、酷く遅かったように思う。
全てを信じたくなくて世界を拒絶し続けた私をシュナイゼルは優しく囲ってくれた。
じわじわと羽根をもがれた事にさえ気付かせずに。
気付けば彼は私を完全にその手中に収めてしまった。
既に飛び立つ事は出来ないとどこかで分かっていた。


「…シュナイゼル様。」

「ん?何だい?」

「――エリア11へ行ってみたいです。」

「何故?」


彼の意にそぐわない願いを申し出た私に、シュナイゼルはその端整な顔を僅かに歪めた。


「私は恐らくこの世界で言うとイレヴンと呼ばれる民族になるのでしょう。トウキョウ租界へ行ってみたいのです。」

「それは許可出来ないよ、名前。君をこの屋敷から出すつもりは無い。君はイレヴンではないのだから。」

「シュナイゼル様。私は日本人です。」

「それでも――、イレヴンじゃないよ。」


哀しそうに笑って頭を撫でられてしまえば、それ以上言葉を紡ぐことなど出来なかった。
彼は私の口を閉じる方法を熟知している。


「――シュナイゼル様は私をどうしたいの?」

「君は私の可愛い小鳥だよ。私が用意した鳥籠で幸せに暮らせば良い。決して空など望まずに、ね。」


綺麗で、そして狂っていた。
何が間違っていたのかなんてもう考える事すら無駄に思えたのだ。

(そして温かい腕の中で、私は深く沈んで行くのだ)


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