「総司!!また勝手に目覚まし弄ったでしょ?!」
「ん〜…。名前ちゃん、うるさい…。」
「うるさいじゃなぁぁい!また遅刻だ…。」
チュンチュンと楽しそうに鳴く雀の声が今は非常に煩わしかった。
時計は既に9時を示していて、思い切り始業時間である。
それを横の男はニヤニヤと見つめていた。
「だって名前ちゃん、昨日でプロジェクト終わったって言ってたじゃん。今日ぐらい休んでも罰は当たらないって。」
「おバカ!社会人と大学生は違うの〜!!もう…。またボスに怒られる…。」
言い訳を考えながら、名前はシーツを身体に巻き付けて立ち上がる。
それを総司はむくれたように眺めていた。
「だって一ヶ月も残業とかで放置されたんだよ、僕。そろそろ構ってくれても良いんじゃない?」
拗ねたように言う総司に、名前は駄目だと思いながらも白旗を上げた。
結局この可愛いおねだりには逆らえないのだ。
「――ゴメンね、総司。寂しかったの?」
「当たり前じゃん。」
「…しょうがないなぁ。今日ぐらいは構ってあげる。だからちょっと待ってて。仮病使わなきゃ。」
携帯を手にすれば部屋を後にする名前を見ながら、総司は満足そうに笑った。
困るかな、ああでも、すごく困らせたい名前ちゃんは僕に甘い。
それは付き合った当初から知っていたこと。
大学生の僕とキャリアウーマンの名前ちゃん。
周りから見たら変なカップルに見えるのも知っている。
名前ちゃんは外では仕事をバリバリこなすキャリアウーマンで、男も顔負けするぐらいに仕事が出来る。
でも一歩家に入ればスッピンで僕に甘えて来て家事なんかあんまりやらなくて(でもたまに作ってくれるハンバーグはめちゃくちゃ美味しいんだけど!)
それで甘える時なんか本当に可愛いんだ。
でもそれを知ってるのは僕だけと言う優越感。
周りの奴らは名前ちゃんを『鉄の女』とか言ってるけど、僕はバカじゃないのって目で見下してる。
それが本当に気分が良いんだ。
「――今日ぐらい悪戯しても怒らないかな。」
仕事疲れで爆睡してる彼女を起こさないように目覚ましを止めれば再び横に潜り込む。
この1ヶ月根を詰めていたプロジェクトはようやく昨日終わりを告げたらしく、久し振りに会った彼女はストレスを晴らすかの如く僕に甘えて来た。
だから僕は絶対に弱音を吐けない名前ちゃんの変わりに悪戯をしてその身体を休めてあげる。
真面目な彼女は自分から進んでずる休みなんか出来ないだろうから、たまにはね。
「総司〜!まだ寝る?」
「ん〜。今日は昼までゆっくり寝ようよ。で、お昼に散歩がてらランチに行こ?」
「そうね。は〜、こんな時間に寝てるなんて贅沢!」
電話を終えた名前ちゃんは嬉しそうにベッドにダイブして来る。
その様子が可愛くて僕は名前ちゃんに抱き付いた。
「ん〜。総司、重たいってば。」
「だって名前ちゃんの匂いが落ち着くんだもん。やっぱ僕、名前ちゃんがいないとダメだなぁ。」
「ふふ。ばぁ〜か。」
全然嫌がってないのにそんな事を言う名前ちゃんが酷く愛しいと思う。
「ね、名前ちゃん。僕、今年卒業なんだよ。」
「うん?知ってるよ。何?ご褒美欲しいの?」
「そうだなぁ。働き始めたら名前ちゃんと同じ土俵に立てるから。そしたら一緒に暮らさない?」
僕がそう言う名前ちゃんは酷く驚いた顔をして、そして笑った。
「――生意気。」
「イタ。もう子供扱いしないでよね。」
「ゴメンゴメン。――そうだね。総司と一緒に暮らせたら幸せだなぁ。」
ギュッと抱き付いて来る名前ちゃんの顔がとても幸せそうで、僕はその額に口付けた。
「待ってて。春になったら叶えてあげる。」
「うん。楽しみにしてるね。」
それは永遠の約束にも似た誓いだったのかも知れない。
-----------
君酔:企画提出作品
素敵な企画に参加させて頂き有難うございました。
2011/08/05 天月レイナ拝
←