「――おい、貴様。」

「前から言ってるけど私の名前は『貴様』ではありません。」


いつも思うがその仏頂面はもう少しだけどうにかならないものなのだろうか。
毎度毎度厳しい顔をして話し掛けて来るものだから、私は少しだけ笑いを堪えてしまった。


「――少し付き合え。」

「何?」


三成からのお誘いだなんて明日は槍でも降るのだろうか。
そんな事を思って入れば、その男は黙って歩き出した。


「あ、ちょっと!もう!三成ってば。」

「うるさい。良いから黙って私に付いて来い。」

「――はいはい。」



*******


「――甘味が食べたかったわけ?」

「違う。」


違うと言いながらも、石田三成は目の前で団子を頬張っている。
普段御飯を驚く程食べないから逆にその光景は珍しかった。


「…どう言う風の吹き回しよ?」

「何でも無い。」


良く分からない男だと思う。
仕方ないから私は団子を平らげて(しかも美味!)そのまま三成に何故か海に連れて行かれてしまった。


「…本当訳が分からない。」

「お前は先程からそればかりだな。」

「三成が意味の分からない事を言うからでしょ。」


夕日が落ちかかった海はとても綺麗で、三成の顔を見ればその横顔はどこか憂いが掛かっているように見えた。


「…三成?」

「――明日、私と刑部は戦に出る。」


その言葉に、私はあぁ――と思う。


「…そっか。」

「何も言わぬのか?」

「言ったところで止まるの?」

「いや。相手は家康だ。止まることなど許されぬ。」

「三成はどうしても自分で自分が許せないのね。」


苦笑すれば三成が珍しく目を反らさずにこちらを見て来た。
その切れ長の目にまるで捕われてしまったかのように反らせなくなってしまった。


「――お前はどうする?」

「何が?」

「いつまでも私の側にいる必要は無い。知っているぞ、最初お前は私を殺したかったはずだ。」

「――恋人を殺されたから?」


特に驚く理由も無い。
だって私は本当に最初はこの男を殺すつもりでここにやって来たのだから。
徳川軍の下っ端だった私の恋人は先の秀吉が亡くなった戦でこの石田三成と言う男に殺されたのだから。


「殺したいのなら殺せ。お前の刃になら悪く無い。」


スッと刀を渡されて、私はその重みを知る。


「――三成。人魚姫の話を知ってる?」

「知らん。」

「人間の王子様に恋をした人魚姫は消えてしまうのよ。王子様を殺せば自分は生きていられたのに。泡になって消えてしまうの。」


ギュッと握った刀は酷く無機質で冷たかった。


「――だから。私もアンタを殺さない。」

「泡になると?」

「そうよ。泡になるまでここで帰りを待ってるから。勝手に死んだら許さない。」

「――分かった。」


そう言って刀を受け取った三成はそのまま私の手に自分の手を重ねる。


「…お前は暖かいのだな。」

「三成は冷たい。まるで海の中にいるみたいね。」







きみとなら界は色をしたんだろう








嗚呼――、人魚姫。
貴方は王子様の為に死ねて幸せでしたか?



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星を泳ぐ魚:企画提出作品。
素敵な企画に参加させて頂き有難うございました。
海=人魚姫って単純思考だったのだけど、この時代にあったのかは不明(笑)
2011/07/28 天月レイナ拝


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