太陽のようだと思ったのは、初めて出会った時。
太陽に恋をした雪は、静かに溶けていきました 「三成!どこにいるの、三成!」
「そんなに名前を連呼しなくても聞こえている!何だ?!」
城の中を大声で三成の名前を連呼して歩く名前に、三成は若干怒ったように声を掛ける。
「あ、いた。ねぇ、どう言うこと?!次の戦に私が入っていないって聞いたわ!まさか置いて行くつもり?」
「当たり前だ。大体女が戦をするな。」
「男女差別反対!大体、私の方が強いじゃないの。」
「それはいつの話だ、バカモノ!大体、お前が強いのは竹刀だろうが!」
まだ秀吉が健在だった頃、三成は何度剣道の試合をしても名前に勝つことは出来なかった。
「お前はここで私の帰りを待ってれば良いんだ。」
「そんなの嫌よ!私だって秀吉様の敵を討ちたいのよ!」
「名前!」
「三成の分からず屋!」
「おい!話を聞けェェ!」
勝手に走り出した名前の後姿に、三成の叫び声が届く事は無かった。
「やれ。また今日も一段と痴話喧嘩が酷かったの。」
縁側で拗ねていれば、大谷吉継がふよふよと浮いている。
「刑部。そんなんじゃないって知ってるくせに。」
「そう怒ってやるな。三成の憂いも分かっておるのだろう?ぬしが大人になってやらんでどうする?」
「…大人になんてなれないよ。三成は分かってない。」
そう呟く名前に、吉継は苦笑しながら横に腰を下ろす。
「そんなにあの男が大事か?」
「…嫌なの。これ以上、大事な人を失うのは。待ってるだけなんて耐えられないよ。それだったら一緒に戦ってる方がマシじゃない?」
「ぬしの気持ちも分かる。…だが、名前も三成の気持ちが分かっておらぬな。」
「何よ、それ。刑部には分かるって言うの?」
少しだけ嘲るように言われたのが妙に癪に障り、名前は少し怒ったように言う。
「…惚れた女が戦場で戦っているのを見る事程、酷な事はなかろうて。」
「惚れた…、って。誰が誰に?」
「…何じゃ、ぬしら。まさかお互いに分かってなかったのか?」
呆れたように言う吉継の後ろで、ガチャンと盛大な音がしてそちらを振り返れば顔を真っ赤にしたり蒼白にしたり(まぁ器用なものだ)した三成が立っていた。
「ぎょ、ぎょ、ぎょ、刑部!!貴様、名前に何を…?!」
「丁度良かった、三成。ぬしも男であろう。いい加減ハッキリさせてはどうだ?」
「貴様ァァァァ!」
「やれ。我に怒るは筋違いよ。では名前、そう言う事だ。ぬしが大人になってやれ。」
「いや、そう言う事って…。」
微妙な空気の二人を残したまま、吉継は至極楽しそうに去って行った。
「…えと、あの…。」
未だに顔を赤くしたり蒼くさせたりしている三成に、名前は困ったように声を掛ける。
「・・・・・・・・・・・・・そう言う事だ。」
「は?」
「だからそう言う事だと言っている!」
「いや、だから何がよ?!意味分かんないってば!」
いい加減勝手に切れたりする三成に腹が立って、名前は大声を上げる。
けれどその怒りは抱き締められた腕の暖かさに、全て吸い取られて行った。
「…みつ、なり?」
「刑部が言っていただろう。…惚れた女が戦場で戦っているのを見るのは酷だと。」
「…それを私流に解釈すると、三成が私を好きって事になるんだけど?」
「だからそうだと言っている!」
「…嘘ぉ…。」
「こんな状況で嘘だと言うお前が嘘だろう。」
三成にしてはまともな発言である。
けれどそれよりも名前の頭は容量オーバーを起こしていた。
だってこの男と来たら。
寝ても覚めても口から出るのは、「秀吉様」で。
名前だって秀吉を崇拝していたが、流石にどうかと思う程だったのだ。
そんな三成の事を好きだと気付いたのはいつの頃だったか。
けれどこの想いが叶う事はないと早々に理解していたので、名前は自分の気持ちに蓋をした。
せめて朽ち果てるまでこのまま側にいれたらそれで良い、と。
そう願っていた。
「…三成が果てる時は、私が見届けるって決めてた。」
「だからそれが間違っている。私は負けん。貴様がいる限りな。だから貴様は安心して城で私の帰りを待っていろ!いいな?」
「…信じても良い?」
「当たり前だ。私がお前に嘘を付くと思うのか?」
すうっ、と。
心の中で何かが溶けて行く気がした。
「三成…。愛してるって言ってくれたら待っててあげる。」
「バッ…!!…一度しか言わぬから良く聞け。」
一度顔を真っ赤にした後、三成はゆっくりと耳元で囁いた。
「…愛している。」
「私も…。」
その一言だけで、私はきっといつまでも待っていられるのだろう。
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燦参:企画提出作品
素敵な企画に参加させて頂き有難うございました。
2011/07/12 天月レイナ拝
御題配布元:
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