あの夏を僕らはきっと一生忘れない。
「…蔵。」
姿が見えない蔵ノ介を探していたら、その姿を偶然見付けた。
「泣いてんの?」
「泣いてへんよ。」
「嘘つきやね、蔵は。涙の痕、ついてるやん。」
そっと涙の痕を拭ってやれば、蔵ノ介は不意にきつく名前を抱き締める。
「ちょ…、蔵!?」
「ゴメンなァ、名前。俺、勝たれへんかった…。優勝出来ひんくてゴメン。」
「蔵は勝ったやん。あたし見てた。ちゃんと見てた。蔵は世界で一番カッコ良かったやん。」
「ちゃう…。アレはマグレやった。不二が最初から本気で来てたら、俺は勝たれへんかった。」
抱き締めたまま耳元で喋る蔵ノ介の声が今にも消え入りそうで、名前はそっと背中に腕を回す。
「ちゃうよ、蔵。それも蔵の実力のうちや。蔵は勝った。けど四天は負けた。コレが事実や。」
「…名前は悔しくないん?」
「悔しいに決まってるやん!でも皆が頑張ったん知ってるから。せやからあたしは悔しいよりも有難うって言いたいねん。蔵、あたしを全国に連れて来てくれて有難う。」
「名前は…、優しいなァ。」
「何や、ソレ。ねぇ、蔵。素敵な夏だった?」
「おん。きっと一生忘れへん。」
「うん。あたしも。」
ようやく離れた蔵ノ介はいつの間にか笑っていて、名前はつられて笑う。
「もう…、引退やね。」
「せやな。けど高校に行ったらまたテニスやるし。名前も勿論マネやってくれるんやろ?」
「当たり前やん。蔵の面倒見れるのあたしだけやし。」
「なぁ、名前。忘れられへん夏にする為に一個お願いしてもエェ?」
「なぁに?」
背伸びをしながら答えれば、蔵ノ介は妙に真剣な顔で。
変にドギマギする心臓がうるさかった。
「キス、してえぇ?」
「…えぇよ。」
「おおきに。」
ゆっくりと重なった唇の感触はきっとあたしは生涯忘れない。
この一瞬は永久保存版 「俺のこと好き?」
「何で蔵が聞くねん!バカ!」
「スマンスマン。なぁ、俺めっちゃ名前のこと好きやで?」
「…知ってるわ、バカ蔵。」
「帰ったら夏休みやん。海行ってお祭り行って…、たくさん思い出作ろな?」
「…うん。蔵、好きやで。」
「アカン!めっちゃ可愛ェ!なァ、もっかいチューしてエェ?」
「良くないわ、バカ!!」
僕達の夏はまだ始まったばかりだ。
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Crazy:企画提出作品。
素敵な企画に参加させて頂き有難うございました。
2011/07/12 天月レイナ拝
御題配布元:
George Boy
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