ひらり、ひらりと宵闇に舞うは



華麗な蝶々…。




自由を奪う為に、手折ったのは



その漆黒の翼…。




















名前がこの時代に来てから、二度目の夏が来る。

いつの時代も、太陽は変わらぬのだと名前は痛感していた。


「あっつい…。溶けちゃいそう…。」

「暑い、暑いと分かり切った事を言うな。余計に暑くなる。」


冷たく言い放つのは、平知盛。

名前はこの時代で彼と出会い、そして恋をした。

知盛は言葉では言い表さないものの、二人は公認の仲となっていた。


「まぁまぁ、お二人共。名前殿。暑いのなら、私が扇いで差し上げましょう。」


重衡は二人を宥めながら、自らの扇を取り出す。


「え?良いですよ!重衡さんも暑いでしょ?」


名前は慌てて頭を振った。

そんな二人の様子を、知盛は気に入らないとばかりに睨んでいた。

そんな二人を重衡は苦笑しながら見ていた。

そんな重衡の目に『ある物』が飛び込んで来る。


「名前殿…。名前殿の指に嵌めてあるのは何ですか?」


重衡の視線の先には、名前の薬指に嵌まった指輪があった。


「…ん?あ、コレ?指輪って言うの。この時代には無いんだっけ?」

「…何だ。その指輪と言うのは。」


珍しく知盛が指輪に興味を示す。

そんな彼の様子に、名前は苦笑した。

珍しく食いついて来る知盛が新鮮で、名前は喜々として話した。

婚約指輪や結婚指輪の意味、習わし等を。

最初は興味深く聞いていた知盛だが、段々と機嫌が悪くなっている事に名前は気付け無かった。


「って訳で…。愛した人にコレを送るのがあたしの時代での習わしなの。」


話を纏める様に言えば、二人は複雑そうな顔をしていた。


「…?二人共、どうしたの?」


キョトンとしている名前に、重衡がおもむろに口を開く。


「…では、名前殿には既に心にお決めになった方がいらっしゃるのですか?」

「…は?」


重衡の言葉に、名前は目を丸くする。

その瞬間、知盛が絶対零度の冷気を放っていた。


「…重衡。席を外せ。」

「…お手柔らかに。」


兄の様子に重衡は苦笑を零す事しか、出来無かった。


「とも、…もり?」


彼の様子に冷や汗を掻きながら、恐る恐る声を掛ける。

振り返った知盛は、冷たく笑っていた。

まずい、と名前は後ずさった。

けれど、それを知盛が許すはずもない。

あっという間に名前は知盛に組み敷かれていた。


「…きゃ?!知盛?!何か勘違いしてない?」


名前は平静を装いながら、知盛を宥め様とする。


「何が勘違いだ。こんな物を俺に見せ付けて置いて…、こうされたかったのだろう?」


ククッと意地の悪い笑みを浮かべれば、名前の薬指に嵌まっていた指輪をスルッと取り外す。

そしてそれを名前に見せ付ける様に、床に転がした。

名前は知盛の下で、転がって行く指輪を不思議な気持ちで眺めていた。

ただのアクセサリーでしか無かったはずの指輪。

けれど、それは自分の過去の様な気がした。

その過去に彼は今嫉妬をしているのだ。

名前は嬉しい様な哀しい様な複雑な気持ちになった。


「…オイ、どこを見ている?俺を見ろ。」


知盛は苛立つ声で、名前の頬を軽く叩く。


「痛…!…知盛、妬いてるの…?」

「…黙れ。」


低い声で唸る様に言えば、噛み付く様に口付けた。


「ふっ…、ンン?!…はぁ、とも…もり!」

「その唇で他の男の名を呼ぶ等、許さん。その身に教え込んでやる。」


唸る様な声で言えば、名前の着物を引き裂く。

名前は抵抗をする気等起きず、ただ身を任せた。


「…知盛…。信じて。愛してるのは、知盛だけ…。」


彼の指で、舌で、翻弄されながらも、名前ははっきりと言葉を紡いだ。


「…知っている。」


素っ気なく呟くも、微かにその口元は笑っていた。

その夜。

名前が一晩中、知盛の部屋から出て来る事は無かった。


「…ねぇ。一つだけ言っても良い?」

「…何だ?」


もう夜も明けた頃。

名前は一糸纏わぬ姿で、知盛の腕に抱かれていた。


「指輪、さ。アレ、何の意味もないんだよ。」

「…?」


意味が分からないのか、知盛は目を丸くしている。


「確かに婚約指輪はあるんだけど、あたしのはただの装飾品なの。まぎらわしくてゴメンね?」

「…ふん。」


名前の言葉に、知盛は答えなかった。

そんな彼の髪を、名前は愛おしそうに撫でる。


「ねぇ、知盛…。大好きだよ…。」

「…あぁ。」


知盛はそれだけ言えば、再び深く口付けた。



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相互リク
『Little*Tiara』管理人・紅桜様へ。


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