これが罪だと言うのなら粛清すればいい。
けれども願いが叶うのなら。
裁かれるのなら貴方の手に裁かれたい。
押し当てた拳銃、弾丸には愛を 「本当救いよ〜のねぇバカだな、テメェは。」
ボルサリーノを深く被ったボンゴレのヒットマンは鉄格子越しに呆れたように呟いた。
「うるさいわね、リボーン。いいのよ、これで。私は後悔なんてしてないわ。」
「それがバカだっつってんだ。お前は良くてもヒバリはどうなる?自分の為に死刑になった女を思って生きて行くのか?」
「それがあの人の罪だわ。一生忘れないなんて素敵じゃない。」
「悪趣味。」
好き勝手に言うリボーンを鼻で笑う。
「何とでも言いなさい。私は後悔なんてしていないのよ。あの人を守って死ねるなら本望だわ。それに恭弥は絶対に私を忘れない。生きて忘れられるぐらいなら死んで心に残った方がマシよ。」
「この世で一番恐ろしいのは死ではなく忘れられること、か。」
「えぇ。」
「恐ろしい女だな、お前は。」
哀れな哀れな哀しい女だと、そう思った。
でもそれと同時に幸せな女だとも思う。
名前は捕われた雲雀を助ける為に、ボンゴレの情報を売った。
それはマフィアのファミリー内では犯しては行けない大罪。
なのにこの女は後悔していないと言う。
そして雲雀がこの事実を知った時、自分を許さないであろうことも知っているのだ。
全て承知の上でやったこと。
「お前は良い女だな、名前。」
鉄格子越しに髪を撫でれば、名前はフンと鼻で笑った。
「触らないで。私の髪一筋までも恭弥のものよ。」
「…敬服するぜ。」
その時、綱吉が姿を現す。
その姿は昔のダメツナの面影など見当たらず、憂いすら帯びている姿はドン・ボンゴレの名に相応しかった。
――カツン、カツン、
綱吉の踵の音が響く。
彼はマフィアのボスであって尚、このような陽の当たらない場所は酷く似合わない気がした。
「…Ciao、ドン・ボンゴレ。」
「名前、ふざけないで。僕が何でここに来たか分かる?」
「ツナ。私を逃がすつもりなら止めて。私はそんな事望んでない。」
名前の言葉に、綱吉は哀しそうに鉄格子を握り締める。
「何故…!このままでは僕は君を殺せと命じなければならないんだよ!」
「そうよ、ツナ。それで良いの。ドン・ボンゴレはそう命じるべきよ。」
「嫌だ!雲雀さんを助けた事を僕は間違いだとは思わない!なのに…、その罪を君だけに償わせるのは間違ってる!」
嗚呼――。
やっぱり彼は綱吉なのだと、名前は心のどこかで思う。
ドン・ボンゴレになっても、ダメツナではなくなっても、それでも彼は彼だ。
「ツナ…。良いのよ、これで。全て私は承知の上でやったの。だから貴方にも相談しなかった。」
「だから…!それが間違ってるんだ。」
今にも泣きそうな声で言う綱吉の手を握る。
「…ならツナ。一つだけ我儘を聞いて?」
「何だい?」
綱吉が顔を上げる。
その顔を目に焼き付けて置こうと思った。
「…私を裁くのは恭弥にさせて。」
「――ッッ?!」
何て酷い女だと、彼はそう思ったのだろうか。
だけど恭弥は昔約束をしてくれたのだ。
私の命が無くなる時は、自分が絶つのだと。
そう言ってくれたのだ。
「名前…、それは。」
「私を殺して良いのはあの人だけよ。」
「…やっぱりこんなの間違ってるよ。」
納得しない綱吉を見兼ねたのか、リボーンが口を挟む。
「無駄だぜ、ツナ。この女は何を言っても聞きやしねぇ。それに今のお前の立場で裏切り者を逃がしてみろ。どうなるか分かるだろ?」
「だけどリボーン!名前は裏切り者なんかじゃないだろ?!」
「さぁ、どうだかな。やった事は裏切りだ。」
「リボーン!」
一見冷たいとも取れる彼の言葉を綱吉は諌めるように叫ぶ。
だけど私はそれで満足だった。
「ツナ。勝手なことをしてごめんなさい。でも分かって?貴方はドン・ボンゴレとして私を粛清するべきよ。」
「…勝手だ、名前は。」
それは悲痛な叫びにも聞こえた。
やがて夜が明ける。
さぁ、貴方はどんな顔をして私を殺しに来てくれる?
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