「アカン。泣きそうや、俺。」


酷く綺麗な顔で彼は言った。


「幸せ過ぎて泣きそうや。」
















ぼくの眼が、耳が、心臓が、覚えてるきみが消える前に

















「蔵。本当にいいの?」


彼の名は白石蔵ノ介と言った。
初めて出会ったのは、中学生の時。
東京から大阪に転校した先で、私は蔵と出会った。
最初の印象はこんなに綺麗な人がいるのかと思った。
色素の薄い髪に、色素の薄い肌。
無駄の無い引き締まった身体はアスリートだと言う事を一目で理解させた。
そんな蔵に私は一目惚れをした。
あれから6年。
20歳になった私達は結婚と言う儀式を行おうとしている。


――ただし、これは期限付きの結婚。


何故なら私の命は後半年で終わりを告げるのだから。
事実を知った時にはもう手遅れだった。
そんな絶望に立たされた私に蔵は迷わず「結婚しよう」と言ってくれた。
多分きっと私は世界で一番の幸せ者だ。
けれど――。
同時に世界で一番罪人なのだろう。


「本当にええのって可笑しなコト聞くなァ、名前。俺から言うたんになんでダメなん?」


蔵は本当に幸せそうな顔でそんな事を言うものだから錯覚してしまいそうになる。


「だって…。半年経ったら私は…。」

「名前。それ以上言うたらアカンよ。お医者様も言うてたやろ?人間幸せなら死なんねん。せやから名前は死なんよ。だって俺がこれから世界で一番幸せにしたるんやから。」

「バカだよ、蔵は…。」


本当に本当に世界で一番バカで、世界で一番カッコイイ男だと思った。


「名前、愛してるよ。」

「私も――。」


私達はその日、確かに永遠を見たのだ。


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