『サヨナラ』と告げたのは、愛しているから。
だけど涙は止まらない。
そんな愛なんて欲しくなかったのだと今なら言えるのに。
「…今、なんて言ったの?」
名前の声が自棄に耳に残る。
酒場でうるさいはずなのに、周りの雑音が一切聞こえない。
「…別れよう、って言ったんだ。」
「冗談…、でしょ?」
名前の目を見れなかった。
冗談でそんな言葉、言えるはずがない。
残酷で、哀しい言葉なのだから。
「悟浄、冗談はやめて。今なら聞かなかった事にするから。」
縋り付く名前の手は、とても暖かかった。
「冗談じゃねぇよ、名前。俺たちはもう終わりだ。」
俺は今、上手く表情を作れているだろうか。
「嫌よ!何なのよ、急に!どうしたのよ、悟浄!」
「…三仏神から命令を受けたんだよ。俺は…、三蔵達と旅に出る。」
「…え?」
名前の泣き顔は世界で一番綺麗だと思った。
不謹慎だけれど。
「旅って…。じゃあ待ってるから…。悟浄が帰って来るの待ってるから!」
「ダメだ!絶対待つんじゃねぇ。」
「どうして?!」
『待つ』と言う事は、俺に縛られると言うこと。
いつ帰れるかも分からないのに、そんな事はさせられない。
俺は禁忌を背負った咎人だからどうなっても良いけれど。
君だけは、
幸せを選んで欲しい…。
だから俺は、
「重い、だろ?」
最初で最後の、最低な『嘘』を吐く。
「…良いんですか?名前さんに会って行かなくて?」
「あ〜?言ったろ、お別れして来たってよ。」
「おやおや。強がりさんですねぇ。」
その見透かした目が今は嫌いだ。
「強がってね〜よ、さっさと行こうぜ。」
「悟浄。あそこ見て下さい。」
「あ?」
八戒が指差した先には、名前が立っていた。
分かってた。
優しい貴方が吐いた嘘の本当の意味なんて。
全部全部あたしの幸せの為だなんてどれだけかっこつければ済むのだろう。
「…良いよ、悟浄。分かってるから。貴方だけが悪者にならなくて良い。だから…、振られてあげる。」
最後に見た貴方の顔が驚きの表情になるなんて笑っちゃう。
「…バイバイ。」
「…行くぜ、八戒!」
「はい。」
遠くて喋った言葉は分からなかったが、表情で気持ちは分かったから。
「次会う時は、ガキぐらい生んでろよな。」
きっといつか会いに行くから。
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