貴方はいつも肝心な事を言ってくれないから。
その意味を測るのは大変なのだと少しは自覚して欲しい。
ねぇ、三蔵?
「三蔵!三蔵ってば!!」
「何だよ…、うるせぇな。」
名前の方を見向きもせずに、三蔵は答える。
「…何でこっち見てくれないのよぉ…。」
「あ?…何で泣いてんだ、お前は…。」
ようやく新聞から顔を上げれば、涙を浮かべている名前に三蔵は目を丸くする。
「三蔵なんか…、大嫌い!!」
「おい、名前!?」
部屋から名前が出て行くのを三蔵は呆然と見ていた。
「…何だ、アイツ…。」
「なぁ、三蔵〜!さっき名前が走ってったの見えたけどどっか行ったのか〜?」
名前と入れ違いに悟空が入って来る。
「…あぁ、ちょっとな。どうかしたのか?」
何故か本当の事は言えず、誤魔化すように言う。
「いや、何時に帰ってくんのかなって思って。今日、名前の誕生日だろ?」
その言葉に、三蔵の顔が苦虫を踏み潰したようになる。
「三蔵?」
「…ッチ。俺も出掛けて来る。夜までには戻るから八戒にもそう言っとけ。」
「三蔵のば〜かば〜か。…ちょっとぐらい何かって聞いてくれたって良いじゃん。折角おめかししたのにさ。」
新調したドレスは三蔵の瞳の色に合わせて紫にしたのだ。
「…別に誕生日なんかどうだって良いんだけどさ。…別に。」
「だったら何でこんなとこで不貞腐れてやがる?」
不意に後ろから掛けられた声に、名前は目を見開く。
「さんぞ…?!何で…?」
「あ?喧嘩売ってんのか、お前は。お前が飛び出して行ったからに決まってんだろ。」
面倒臭そうに言えば、三蔵はマルボロに火を点ける。
「…心配、した?」
「当たり前だろ…。そんな格好でどこに行く気だったんだ、お前は…。」
その言葉に、名前は目を見開く。
「…本当はね、誕生日なんかどうだって良かったの。三蔵が忘れてるのも知ってたし。ただちょっとこんな格好したら今日は何の日?って聞いてくれるかと思ったの。」
側に寄れば、ギュッと抱きついて来る名前を三蔵は抱きしめてやる。
「…あぁ。」
「…なのにこっち見てもくれないんだもん…。そりゃ泣きたくもなるでしょ…。」
その言葉に、三蔵はハァと盛大なため息をついた。
「…悪かった。確かに誕生日は忘れてた…。けどお前のその姿は気付いてたぞ。」
「…え?」
「急にそんな格好しやがるから直視出来なかったんだよ。気付け、バカ!」
心なしか顔を赤くして言う三蔵に、名前の顔も緩む。
「…バカって何よぉ…。言ってくれないと分からない事だってあるんだから…。」
その言葉に三蔵は少しだけ微笑むと、顔を近付けた。
「…愛してる。」
「…伝わった。」
夕暮れが重なった二人の影を照らしていた。
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