「愛してる」と嘘をつく自分たちは酷く滑稽だ。



















「んぁ…、三蔵…。」


いつからだったのだろう。

名前と身体を重ねるようになったのは。

最初は女なんて旅の邪魔になるだけだと思って遠ざけていた。

それなのに…。


「…三蔵?何、考えてるの?」


意識をどこかにやっていたらしい。

俺の下で熱っぽい目を浮かべながら、名前が問い掛けた。


「…何でもねぇよ。」

「でも…、んぁ?!アァァァ!さんぞ…、激し…!」


考えを振り払うように突き上げれば、名前は酷く心地の良い声で啼く。


「さんぞ…、『愛してる』…。」

「…あぁ、俺も。『愛してる』さ。」



言葉は時として残酷だ。

名前が相手をしているのは俺だけじゃないと言うのを知ったのは随分前のこと。

俺たちは確かに付き合っていた訳じゃない。

だから名前が悟浄と関係を持っていることを知っても特に咎めることはしなかった。

…いや、出来なかった。






「三蔵?眉間に皺が寄ってますよ?」


割と大きな街に滞在して三日。

俺の機嫌が悪いことに気付いた八戒が言う。


「…名前は?」

「名前さんですか?さぁ…、悟浄の部屋じゃないですかね?」

「…ッチ。」


舌打ちをすれば俺は部屋を後にした。


「やれやれ。いつまでこのくだらない茶番劇が続くんですかねぇ…。」


全てを知る男はため息をついた。


「…ねぇ、悟浄…。」

「んぁ?何よ、名前ちゃん?」


ハイライトをぷかぷかと吹かしている悟浄を名前は見上げる。


「や〜っぱさこんな事しても意味ないんじゃない?」

「そォかぁ?そろそろ効果あると思うんだけどな。」


そこまで言えば、悟浄はニヤリと笑う。


「…来た。名前ちゃん、ちょっと悪ィな。」

「え?きゃっ?!」


不意に腕を引かれたと思えば、名前は悟浄に組み敷かれる。


「ちょ、悟浄?」


起き上がろうとした瞬間、ちょうど扉が開かれる。


「おい、河童!ここに名前が…。」


入って来たのは三蔵だった。

三蔵は中の様子を見れば固まっていた。


「なァんだよ、三蔵サマ。邪魔しないでくれる?今イイトコなんだからよ。」

「…貴様…。」

「さんぞ…、ンン?!」


思わず声を上げようとする名前の口を悟浄は自分の唇で塞いだ。


その瞬間、辺りに銃声が児玉した。


「…離れろ、エロ河童。」

「今更じゃね?お前、コイツが俺とも関係持ったのに何も言わなかったじゃねぇか。」

「……ッッ。うるせぇ。」


舌打ちをすれば、三蔵は名前を無理やり引っ張り出す。


「コイツは俺のモンなんだよ。手を出すんじゃねぇ。」


その瞬間、名前は目を白黒させる。


「…ぶっ…。ったくよォ、ようやく言ったか。生臭坊主。」

「……あ?」


カチッと言うライターの音が自棄にうるさく響いた。


「つまり、俺は名前ちゃんに頼まれて一芝居売ってたわけ。」

「…デス、はい…。」


一通り話を聞いた三蔵は、額に青筋を浮かべていた。

つまり事実はこうだ。

身体の関係を持った三蔵の口からいつまで経っても「愛してる」と言う言葉が出ないことに、名前は悩んでいた。

それを相談したのが悟浄と八戒だった。

どうせ下らないプライドが邪魔してるだけだと踏んだ二人は、名前が悟浄とも関係を持ったように見せかけた。

限界が来た三蔵が取り返しに来るように…。



「…ふん。紛らわしいんだよ、お前は。」

「…スイマセン。」


三蔵の冷たい視線に名前は縮こまる。


「名前ちゃんを責めんのは筋違いだろォ?お前がハッキリしねぇのが一番いけねぇんだからよ。」

「うるせぇ、エロ河童!てめぇよくも俺のモンに手ェ出しやがったな?」


ガチャと銃口が自分に向いたことに、悟浄は冷や汗を掻く。


「は…?あ、あぁさっきのキスか?つかそんぐらい許せよ!俺ァお前らのキューピットだぞ?!」

「うるさい、死ね!」

「ぎゃあああああ!」







その大騒動で一行が宿を追い出されたのは言うまでもない。


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