ロケット団が解散したというのは、ニュースで聞いていた。テレビの特集で引っ張り凧になっている幼なじみが画面に映った時は、さすがに紅茶を吹き出したけど。

今でも画面の中で無表情を貫いているレッド。他の人から見れば「そういう性格」で納得できると思うけれど、俺にはそう見えない。

何と言うか、すごく焦燥している。
焦りと嫌悪感がごちゃまぜの表情。

俺はそんなレッドに物凄く嫌な予感を感じて、ボールを持って宿泊していたポケモンセンターから飛び出し、ピジョットに跨がった。




「レッド・・・!」

「!」

報道陣に囲まれているレッドを無理矢理連れ出し、近場の喫茶店に入る。


「・・・どうしたんだよ」

「・・・・・・・・・ロケット団、潰した」

「んなのニュースで知ってるっつーの!そうじゃなくて・・・」

「・・・兄さんと姉さんを・・・」


レッドの無表情が悲痛に歪んでいく。長い間一緒にいたけれど、レッドのこんな顔を見るのは初めてだ。


「兄さんと姉さんの夢を・・・希望を・・・僕が壊した」

「・・・は?」


俺達が揃って、兄とか姉とか呼ぶ人物は二人しかいない。
何年も前、トキワに住んでいた双子。俺達の憧れで、何より大好きだった双子。

人形みたいに綺麗で、ふわふわ甘い匂いがして、物凄く頭が良くて、でもそれを自慢するでもなく、色んなことを教えてくれた。
俺が姉ちゃんに貰ったポッポは、ピジョットになっても俺のパートナー。兄ちゃんから貰ったレッドのピカチュウだって、そうだ。

二人に"シルバー"って弟が出来てから、遊んでもらえる時間が減って、レッドがすごくふて腐れてた。
俺には姉ちゃんがいるから、小さい弟を構うようになるのは仕方のないことだって、ちゃんと理解できる。
でも、やっぱり、


「ねえさんとにいさんを取られて悔しい」


そう、素直に言えるレッドが羨ましかった。俺だって、悔しかったし、見たこともない"シルバー"がムカついて堪らなかった。

二人がトキワシティを離れた時なんて、余計だ。

どれだけ泣いても、喚いても、姉ちゃんと兄ちゃんのいた穴はでかすぎて、全く埋まらないんだ。その穴には、あの日から何年も経っているのに、寒々しい風が吹いている。


「・・・ロケット団の首領は、"おじさん"だったよ」

「・・・!」


おじさんと言えば、あの双子の父親で、やたらおっかなかった人。それでも、時々頭を撫でてくれたりした、おっかないけど優しい人。
余りの衝撃に、言葉が出てこない。


「おじさん・・・サカキの野望が潰れたら、姉さんと兄さんの未来も消えるって言ってた」

「んだよそれ・・・」


ロケット団は、悪い奴だ。
人のポケモンを強奪したり、他にももっと悪いことをしていたと聞いている。
だけどそれが、姉ちゃんと兄ちゃんの夢に繋がるなんて、意味がわからない。


「あと・・・今の姉さんと兄さんは"壊れてる"んだって」

「・・・・・・は?」

「だから会わせられない、そう言われた」


壊れてるとは、どういうことなのだろう。
衝撃の連続で頭がついてこないけど、俺の中では一つの決意が固まっていた。


「旅、続けようぜ。姉ちゃんと兄ちゃん探して・・・おじさんの目的がなんだったのかは知らないけど、俺達で叶えるんだ」


だって、誰より尊敬して、何より大好きな二人なんだから。




真実を知る為に

ラジオから流れる声を聞いていた、一人の少年。


「いよいよ、か・・・」


立ち上がり、向かう場所は決まっている。

長くも短くも感じる日々、一つの答えを、曖昧であり最も真実味のある答えを見つけ出した彼等。


「姉ちゃん・・・兄ちゃん・・・」


――帰ろう。

俺達が、二人の為に創り出した理想郷は、ここにあるのだから。




2011.06.17





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