少年――レッド君に連れられて来た所は、中々生活感のある空洞みたいな所だった。

まぁ、それはそうだろう。
ゲームでは朝昼晩山頂にいる二十四時間営業だったけど、彼も人間だ。寝食しないで生きて行けるわけがない。


「・・・飲む?」

「あ・・・ありがとうございます・・・」


何やら毛布みたいなのが敷いてある所に座らされ、差し出されたのは、ホットミルク。もしかして、これが噂のモーモーミルクなのだろうか。何か嬉しい。

レッド君は暫く黙った後、キティやインにもミルクをあげてくれていた。(レディはいまだに私の腕の中でおやすみ中)


「・・・名前」

「え?」

「名前は?」

「あ、ミチルです。自己紹介忘れててすいません」

「・・・別に」


どうしよう、想像以上に無口だ。でも助けてくれたり話し掛けてくれるということは、人見知りではないのだろうか。
それにしても、見た目が大体十六、七歳のこの少年が、伝説なんて厳つい異名を持っていて、しかもこんな山奥で一人暮らししているのか。私の世界じゃ考えられない非行っぷりだ。


「・・・・・・何であそこにいたの?」

「あー・・・自分でもよくわからないんですよね・・・」

「?」


可愛らしく首を傾げられたので(こういう仕種は歳相応なのね)、今までの経緯を話すことにした。
家もなければ知り合いもいない状況で、頼れるのはレッド君しかいないのだから。


「・・・それで、囲まれてたわけです」

「・・・・・・」

「・・・信じられないですよねー」

「・・・いや、」

「あ、お気遣いなく。自分でも信じられないんですから」

「・・・・・・」


信じられないし、夢みたいだけど、私の腕の中にいるレディは確かに温かくて、どこにそんな力があるのか細腕で私を抱き上げたレッド君の胸からは心臓の脈打つ音が聞こえていた。
画面越しのデータなんかじゃなくて、彼もこの子も生きている。私だって、生きている。
今わかる現実は、それくらいだ。


「・・・住む?」

「・・・・・・はい?」

「家、ないんでしょ」

「あ、はい。元の世界にならありますけど」

「なら、ここに住めば?」

「え・・・」

「いや?」


いや、っていうか、え?


「大変有り難いのですが、こんな何者かもわからない不審者にそんなこと言ったらまずくないですか?」

「・・・嘘じゃなさそうだし」

「まぁ、こんな極限の心理状態で嘘言う余裕はないですけどね・・・レッド君はもう少し危機感持った方がいいと思いますよ」

「・・・?」


THE☆鈍感
この子、色んな意味で危なっかしい気がする。


「・・・とりあえず、行くとこないなら、住みなよ」


ワォ、もう疑問形でもなかったんだけど。
というか、有無を言わせないオーラが出てる気がするのは何故。さすが伝説。

そんなレッド君の威圧感に押されて、思わず頷いた私なのでした。






優しい自分勝手
(今から此処が私のおうち)




2011.06.14



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