混乱は涙と一緒に流れてしまったらしく、ひとしきり泣いた後の私の頭はひどく冷静だった。 「・・・とりあえず、ここ何処なんだろう」 今の私の格好は、寝る時に着ていたスウェットじゃなくて、着替える前に着ていた筈の長袖ティーシャツとラメ入りショートパンツ。足は裸足だった。 腰にはベルトが巻かれているのだけれど、その上から見覚えのないポシェット。キティはそこからモンスターボールを出したらしい。 ポシェットの中を漁ってみると、私が常に鞄に入れていた物がそっくりそのまま入っている。手始めにプライベート用の携帯を出したものの、圏外だった。まぁ、それは予測済みだ。多分元の世界じゃない所まで電波の届く携帯なんて、買った覚えはない。 とりあえず、此処が何処なのかを知りたいけれど、ゲームみたいにタウンマップを持ってるわけじゃないので、さっぱりだ。 「どーしよ・・・」 どうしようで解決できればよかったけれど、世の中そんなに甘くない。正義のヒーローなんて、存在しないのだ。 ということは、自分の足で手掛かりを探すしかない。 裸足?それがなんだ。 足着けて産んでもらえただけありがたい。 このサバイバル根性は、向こうの世界で培ったものである。あっちの世界では、人生こそサバイバルだったから。 「・・・よし、歩こうか」 私の声に応えるように、キティとインとレディが鳴いた。 歩き回ること五分。 相変わらず光も何も見えないものの、水が流れている所まで出た。途中、周りが暗過ぎてずっこけそうになった私を、インが支えてくれた。 何となくノリでキティに「フラッシュできる?」と聞いたら、本当にしてくれたので、今はそれなりに明るい。どうやら、ゲームの中では過去忘れ親父だったかに忘れさせた技を、彼等は今でも覚えているらしい。 ということは、外にさえ出れば、インに乗って空を飛べるわけだ。こんな所で飢え死になんてしたくない。 「しかしまぁ、進んでいくにつれて寒くなるね・・・これじゃ、餓死じゃなくて凍死の可能性も否めないかなぁ・・・」 三匹が物凄い顔でこちらを見たので、「冗談だよ」と笑っておいた。冗談じゃないけど。 「いてて、」 「フィー?」 「大丈夫だよ」 遂に、足の裏の皮が切れたようだ。舗装された道路ならいざ知らず、こんな岩や石だらけの場所を歩いているのだから、しかたがないだろう。絆創膏を貼るにしても、綺麗なのかもわからない水で足を洗うのは怖い。 というか、さっき水を覗き込んだ時、深い所にでっかい竜みたいなのが泳いでるのを見たから、多分ギャラドスなんだと思う。そんなんに出てこられたら普通に怖い。 ゲームでなら何も思わなかったけど、あんな凶悪面に睨まれたら防御が下がるどころか腰抜ける。 そんなことを考えながら、一人と三匹で歩いていると、ふ、と目の前に影が出来た。 「・・・・・・?」 見上げた先には、くそでかいくまさんがおりました。 「きききキティかみなり!」 「チャア!」 ――バリバリバリバリ ドッカン 「レディ、ソーラービーム!」 「フィー!」 ――ピカ バコーン 「イン、まもってー!!」 「キィッ!」 もう大混乱です。覚えさせていた技しか頭に出てこない。 しかも最後のインに出した指示とか、確実におかしい。けど、理解してくれたらしいインは、ちゃんと私ごと"まもる"で守ってくれてます。 倒しても倒しても、湧き出てくる野性のポケモン。リングマでも怖いのに、イワーク出てきた時は脳みそ停止するかと思った。 ていうか、 「キリがないー!!!!」 私の仲間達が強いのはわかった。でも今頑張ってくれてる仲間は、データじゃなくて生き物で、限界だって必ずある。 こんな四面楚歌の状態を逃げ出さない限り、私も仲間も共倒れだ。 「あっ・・・!」 レディが、倒れた。疲労で倒れたんだろうけど、このままじゃどでかいポケモンに潰されてしまう。 「イン!レディを守って!」 「キィッ!!」 インがレディの方へ飛んでいく。これでレディは大丈夫なんだけど、 「うっきゃぁあ!!」 私が危ない。 四面楚歌! (MS5)(マジで死ねる五秒前!) 2011.06.14 |