夕方、昨日が豪華な中華料理だったのなら、今日はフランス料理のフルコースがいっぺんに出てきたような夕食を食べて、シロガネ山に帰ることになった。
何でもいいけど、あれだけのご飯を自宅で作れるママは本当に凄いと思う。私の元の世界だったら、川越シェフも驚愕するシェフか料理研究家になれたんじゃなかろうか。

タマムシシティで買った下着に、レッドから貰ったミミロル人形、ポケギア、ワタルさんから貰ったバッジケース(in レインボーバッジ)をポシェットに詰めたら、いざゆかん、シロガネ山。

来るときはレッドのリザードンに乗せて貰ったけれど、スピードの特訓ついでに帰りはインだ。いつの間にかインとリザードンは仲良しさんになってたらしいから、きっと良い師匠になってくれるだろう。


「あ、レッド・・・」

「?」

「グリーンに帰るって言わなくていいの?」

「・・・別に」

「・・・。・・・そっか」


・・・別に、って。
レッドはグリーンにツンデレなんじゃなくて、ツンツンな気がする。もしかして、グリーンがヘタレになったのは、レッドがツンツンし過ぎだからなんじゃないのか。
可哀相だな、グリーン。


「それじゃぁ、ママ。また来ます」

「ええ・・・何だか寂しいわ」


しょんぼりした顔でそう言われてしまうと、私も寂しくなる。これからイッシュに旅立つわけでもないし、すぐに来れる距離なんだけど、義理であっても"家族"と離れるというのはこんなにも寂しいことだったのだと、初めて知った。


「レッド、ミチルちゃんのこと頼むわよ?レッドは男の子なんだから」

「ん、」

「ミチルちゃんも、気をつけてね。ハンカチとティッシュは持った?」

「あ、はい」


まるで小学生の遠足だ。
ただ、こうして心配されたことが人生で殆どない私にとっては、とても新鮮で、胸がじんわり温かくなる。


「・・・ミチル、行こう」

「うん、」

「・・・・・・」


私よりも一歩下がっていたレッドに振り向くと、真顔のままレッドの顔が近づいてきた。
なんだなんだと思っていたら、私の耳に息がかかる。


「・・・ミチルが来たかったら、いつでも帰れるよ」


ぽそり、呟かれた一言。
すぐに離れたレッドの赤い瞳は、優しい色をしていた。

本来――ゲームなら、確実に三年は下山しなかったレッド。
それだけの何かを抱えている筈なのに、今回も含めて私の為にマサラタウンへ帰って来てくれた。

――まるで、ぬるま湯のようだ。
心地好くて、いつまでも浸かっていたいと望んでしまう。


「じゃぁ、"行ってきます"」

「行ってらっしゃい、ミチルちゃん、レッド」


ママに大きく手を振って、待機してくれていたインに跨がった。

離陸しても、振り向くことはしない。
この歳・・・いや、見た目は十五歳くらいだけど、こんな感情で泣きそうになるなんて予想もしてなかった。

インの為にスピードを調整してくれているリザードンの上に乗ったレッドの背中を見て、一つの物語を思い出す。

強くて冷たい風で私の"コート"は飛ばされないけど、暖かい光があれば、そんなコートも必要なくなるんだね。






北風と太陽
(元の世界が北風なら、)
(君の存在が太陽だ)




2011.07.29



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -